初ホラー映画で主演に決まって不安が襲ってきた

――映画『サユリ』の主演はオーディションで勝ち取ったそうですが、決まったときのお気持ちはいかがでしたか。

南出凌嘉(以下、南出) どんな役でも、決まったときはうれしいですし、光栄なことだなと思うんですが、すぐに不安が襲ってくるんですよ(笑)。今回は主演、しかも初ホラーですから、どうしよう……と思って。「大丈夫か?僕にできるのか。怖いけど頑張らなきゃ」という気持ちでした。

――どのタイミングで押切蓮介さんの原作を読みましたか。

南出 確か最終オーディションの前だったと思います。

――普段ホラーマンガを読むことは?

南出 けっこう読むほうです。SFホラー作品が多いんですが、『ジンメン』(カトウタカヒロ)とか好きですね。

――原作の『サユリ』を読んだ印象はいかがでしたか。

南出 押切先生の絵柄は優しいというか、かわいらしいじゃないですか。オリジナルの単行本の表紙に描かれている女の子は、今にも消え入りそうで妖精さんみたいな雰囲気。その子がこんなことになるんだという衝撃……。そして、幽霊と力強いばあちゃんの迫力!ずっとジェットコースターに揺られているような、ぐんぐん感情を揺さぶられる作品でした。この原作を、どうやって映像化するんだと思いましたが、初めて脚本を読んだとき、ジェットコースターが紐なしバンジーになったぐらい、よりスピード感が増していました。

――南出さんが演じる神木則雄は、一戸建てマイホームに引っ越したことで、次々と家族が不幸に見舞われます。前半は呑気さすら感じさせるキャラクターですが、中盤から大きく変化します。

南出 則雄は途中でばあちゃんに太極拳を学びますが、なぜ太極拳なのかを白石晃士監督に聞いたんです。太極拳は場の流れを回すのが重要で、相手の力を利用して、それを相手に返す。防御と攻撃を一緒にするんですよね。則雄自身も太極拳のように受け流すというか、のらりくらりしたところがある。ちょっと鈍感で、嫌なことを受け流す才能があるので太極拳の素質もあるということを教えていただきました。

――そういうタイプだからこそ、他の家族と違って、サユリの攻撃にも耐性があるんですよね。

南出 そうなんです。サユリから攻撃を受けているのに気づかないんですよね。家族全員が不幸に見舞われたことで、初めてサユリの干渉を受けるようになるって、よっぽど鈍感じゃないですか。そこで覚醒したばあちゃんと共に立ち向かう訳ですが、太極拳に通ずる鈍感力と受け流す力が則雄の核になる部分だなと思ってお芝居しました。