こんにちは。GANG PARADE/KiSS KiSSのキャ・ノンです。先日のナタリー2マンツアーにカメラを持って行き忘れるという失態をしてしまい、ライブの日の写真がないため今日は何を書こうか、どう凌ぐか悩んでいます。充電したまま置いていってしまったので、今週はもうリュックに入れました。毎度毎度すみません。

アイドルリアル備忘録のvol.2でも書いたのですが、わたしには誰にも教えていないnoteのアカウントが存在しています。何か使えそうな、ヒントになりそうなものはないかと探していたところ、その下書き用に書いていた文章を掘り起こしたので、今日はそれを完成させて載せてみようかなと思います。

わたしは、そのとき思ったことだったり、忘れないでいたいことだったり、書きたいと思ったものだったり、ラジオで話せそうって思ったことを書き留める癖があって、携帯のメモが940個も溜まっています(月ノウサギの面白発言、行動もたくさんメモしているよ)。実は、遠征帰りのコースターに揺られながら、なんだか目が冴えちゃって、退屈になったときに書いた文章もいくつかあるのです(ナイス過去の自分)。新しいものも書いていきたいなと思いつつ、大抵眠ってしまうので、トイレに行きたいけど言い出せない時が書くチャンスなのです。不評じゃなければ今後、書き留めたものを出す日も作っていければと思っています。それでは、シリーズ化できることを願って。短編小説みたいなものなので、よかったら読んでみてください。

 

 

 

死んだ鳩を思う。それだけが私のすべてだった。

高架下に落ちた羽根は、時折ふわふわと舞っては地に落ちた。見慣れた灰色は、至るところに散っていた。道ゆく人は見て見ぬ振りをした。私はなにも知らない子供のように足を止めて、心臓が飛び出した鳩を凝視するのだった。

「あ、やっぱりそこのラーメン屋さんの前で降ろしてください、すみません」

遠慮なく上がっていくメーターを見つめては、このままとんでもない金額になってしまうのではないかと不安になって咄嗟に声を出す。深夜割増料金は80円ずつ、一瞬で加算されていく。そのたびに、何かが削ぎ落とされている気がした。

「お忘れ物ございませんように」

運転手の声から逃げるように小走りでタクシーを降りる。七月の夜風は涼しいのか、生ぬるいのかわからなかった。辺りは暗かった。街灯に集まる虫はばちばちと音を立て、反対車線にある昔一回だけ家族で行ったラーメン屋は、この時間になってもやっていた。

何度も歩いたこの道は、深夜三時でも車通りが多い。家に向かって歩くと、時々ランニングをしている人や、くたびれたスーツを着たサラリーマンともすれ違う。目を合わせることはないが、この時間に何しているんだろうと、きっとお互いに一瞬考えた。私は馬鹿みたいに重くて大きいリュックを背負って、ゆっくりと足を一歩ずつ前に出した。Tシャツが背中に張り付いて湿っていくのがわかる。帽子の中はじんわりと蒸れて、襟足から汗が伝った。こんな荷物を持っていなければ、汗をかかなくて済む気温に少しだけ腹が立った。

見知った町はつまらない。タクシーを降りてしまったことを後悔する。料金は大差なかったはずなのに、不安に駆られた自分にも嫌気が差した。月に一回貼り替えられるお寺の掲示板の言葉は、この間見たときのままだった。ずっと同じ人が働いているコンビニ、潰れてしまった英会話教室、子供の頃によく遊んだ公園。変わらない景色は時が止まっているようだ。つい下を向いてしまうが、落ちているのは煙草の吸殻と吐き出されたガムだけだった。

鳩を見に行こう。ふと脳裏にあの死んだ鳩が過ぎる。鼓動は一気に大きくなり、渇いた喉で唾を飲み込んだ。そうと決めると、いても立ってもいられなくなる。進む足はどんどん速くなった。気付けば目的地の家は通り過ぎて、あの高架下に向かっていた。近づくにつれて心臓がうるさくなる。べたべたになった腕も、虫刺された足も、脇から伝う汗もなにも気にならない。

あの鳩はきっと車に轢かれたのだろう。少し離れたところに落ちた血痕を眺める。それは道標のように続いていた。辿って歩く。しかし、そこに死んだ鳩はいなかった。誰かが片付けたのだろうか。血の跡だけはしっかりと残されて、鳩がいた場所はぽっかりと空いていた。私はまるで生きる意味を失ったかのように絶望した。もう思うことのできない悲しみに、感情がひとつ減ったみたいだった。落ちた血にべったりとくっついた白い羽根はふわふわと揺れて、私を笑っていた。

死んだ鳩を思う、それだけが私のすべてだった。

過去の連載記事はこちら
https://strmweb.jp/tag/ca_non_regular/

キャ・ノン

「みんなの遊び場」をコンセプトに活動する12人組アイドルグループGANG PARADEのメンバー。また、「KiSSをあなたにお届けchu!♡」をキャッチコピーに活動するWACK初の王道5人組アイドルグループ『KiSS KiSS』のメンバーの一人でもある。ライブ好きで、苦手なことや、できないことは出来るようになればいいというタフでロックな精神の持ち主。2024年5月31日より自分自身のライブレポートなどを綴った『アイドルリアル備忘録』をSTREAMにて連載中。