大学在学中にモデルを始めて、二十代半ばで転機が訪れるという共通点

――キャリアについてお伺いします。お二人とも大学在学中にモデル活動を始めていますが、佐藤さんは東京理科大学出身なんですよね。

佐藤 二部(夜間)ではあったんですが、中学生のときに「物が落ちるのって興味深いな」というところから、「そういう事象を数式にできるんだ」「実験って面白いな」と物理学に興味を持って、進みました。

――どういう経緯でモデルのお仕事を始めたんですか?

佐藤 成人式に親から着物を買ってもらって、一回しか着ないのはもったいないなと思って、「着物クィーンコンテスト2011」というコンテストに出たんです。モデルに興味があったわけではなく、就職活動のときに、経歴として書いたら印象に残るかなと思って、記念受験的な感じで受けて。そこで前に所属していた事務所に声をかけていただいて、もともと服も好きだったのでやってみようかなと。

――遊屋さんは青山学院出身ですが、どうして選ばれたんですか。

遊屋 僕は静岡出身なんですけど、幾つか東京の大学を受けたんです。国公立で合格した大学もあって、どっちがいいか考えたときに、映画の世界に進みたい気持ちがあって。青学はマスコミ系に強いと聞いたので選びました。渋谷にキャンパスがあるというのも決め手の一つだったんですが、1、2年は相模原キャンパスなんですよね。そういうトラップもありました(笑)。

――映画の世界に入りたかったというのはスタッフとしてですか?

遊屋 そうです。それで就活でCMや映画関係の会社をたくさん受けたんですけど、全落ちしたんです。4年生になって、進路どうしようと考えていたときに、俳優かなと。おそらく心のどこかでやりたかったんでしょうね。追い詰められたことで踏ん切りがついて、前にいたモデル事務所に応募したんです。演技経験もないから、いきなり俳優は無理だろうけど、モデルならできるだろうと。それで就活に使うエントリーシートを送ったら、運良く取ってくれました。

――どういう映画が好きだったんですか。

遊屋 もともとはマフィア系です。父親の影響で『ゴッドファーザー』が好きで、アル・パチーノやロバート・デ・ニーロに憧れていました。大学生になって、六本木の映画館でバイトをしたんですが、働いているのがシネフィルみたいな人ばかりで。僕は「ゴダールって誰ですか?」「そんな映画、地元のTSUTAYAにはなかったですよ」みたいな感じだったんですが、そこでいろんな映画を教えてもらいました。

――佐藤さんはどういう経緯でお芝居をやることになったんですか。

佐藤 21歳でモデルを始めて、5年ぐらいやっていたんですが、徐々にファッション雑誌のモデルは無理だなと分かってきて。事務所の方と話し合いをして、CMをやっていこうかという話になり、そのためにはお芝居の勉強もしないとダメだろうと。それで、色々なワークショップを受けるようになったんですが、そこに来ている俳優の方々を見て、“生きてる”って感じがしたんですよね。「私もこうなりたい」とときめいて、お芝居に力を入れたいから前の事務所を辞めて、今の事務所に所属しました。私はひらめきで動いてしまうところがあるので、遊屋さんみたいに、ちゃんと先を考えて俳優の道を選んだわけじゃないんです。

遊屋 いやいや。僕も渋谷で青学を選んだようなタイプですから(笑)。でも、そういう経緯も似ていますね。僕も21歳ぐらいでモデル事務所に入って、26歳で今の事務所に入っているんで。

佐藤 そうなんですね!やっぱり5年ぐらいいると1回考える時期がくるんですよね。

――お二人とも遅くお芝居を始めたがゆえの苦労もありますか?

遊屋 ありますね。

佐藤 今なおって感じです(笑)。

遊屋 子役からやっている方もたくさんいるから、それと比べたら自分は遅いけど、逆に言えば、大学に行って、バイトをして、就職活動をしてと、いろんな経験をすることができたんですよね。そこは僕らにとって強みでもあるし、武器だなと思います。

佐藤 確かにそうですね。役者って得だなと思うのは、どんな経験も糧になるんです。私は就職こそした経験がないんですけど、いろんなバイトをやってきて。回り道したことを引け目に感じていた時期もありました。ただお芝居は、この先も勉強できるけど、若いときの経験って、そのときしかできないじゃないですか。そういう過去の経験を活かせる役者は素敵な職業だなと思います。

――ちなみに佐藤さんは、どんなバイトを経験したんですか?

佐藤 飲食店やコールセンターなど、多くの人が経験するバイトもやりましたけど、理科大にいたときはOBの伝手で、がん研でマウスの飼育をするお仕事をしました。そこで無菌室に入る貴重な経験もしました。あと一回、歌舞伎町で働いてみようと思って雀荘で働いたこともあります。

遊屋 キャバ嬢とかじゃないんだ(笑)。

佐藤 あんまりお酒は飲めないし、危ないことはしたくなかったので、ちょっとだけ歌舞伎町を垣間見られたらいいかなと思って雀荘にしました。それが直接、お芝居に活きるかは分からないですけど、ちょっと引いた視点で社会を見られたのは面白かったですね。

Information

『火だるま槐多よ』
12月23日(土)〜1月12日(金)新宿K’s cinema他全国順次公開

出演:
遊屋慎太郎 佐藤里穂
工藤景 涼田麗乃 八田拳 佐月絵美
佐野史郎

監督:佐藤寿保 脚本:夢野史郎 音楽:SATOL aka BeatLive、田所大輔
配給:渋谷プロダクション
©2023 Stance Company / Shibuya Production

大正時代の画家・村山槐多の「尿する裸僧」という絵画に魅入られた法月薊(のりづき・あざみ)が、街頭で道行く人々に「村山槐多を知っていますか?」とインタビューしていると、「私がカイタだ」と答える謎の男に出会う。その男、槌宮朔(つちみや・さく)は、特殊な音域を聴き取る力があり、ある日、過去から村山槐多が語り掛ける声を聴き、度重なる槐多の声に神経を侵食された彼は、自らが槐多だと思いこむようになっていたのだった。朔が加工する音は、朔と同様に特殊な能力を持つ者にしか聴きとれないものだが、それぞれ予知能力、透視能力、念写能力、念動力を有する若者4人のパフォーマンス集団がそれに感応。彼らは、その能力ゆえに家族や世間から異分子扱いされ、ある研究施設で”普通”に近づくよう実験台にされていたが、施設を脱走して、街頭でパフォーマンスを繰り広げていた。研究所の職員である亜納芯(あのう・しん)は、彼らの一部始終を観察していた。朔がノイズを発信する改造車を作った廃車工場の男・式部鋭(しきぶ・さとし)は、自分を実験材料にした父親を殺そうとした朔の怒りを閉じ込めるために朔のデスマスクを作っていた。薊は、それは何故か村山槐多に似ていたと知り……。

公式サイト

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遊屋慎太郎

1992年5月31日生まれ、静岡県出身。モデル活動後に、2015年に映画『アレノ』(越川道夫監督)でスクリーンデビュー。以降、映画『佐々木、イン、マイマイン』(20/内山拓也監督)、『花束みたいな恋をした』(21/土井裕泰監督)、『福田村事件』(23/森達也監督)、『路辺花草』(23/越川道夫監督)などに出演する他、劇団ハイバイの舞台にも出演。

佐藤里穂

1990年12月18日生まれ、東京都出身。2011年にモデルデビュー、2015年からは俳優として活動。『背中』(22/越川道夫監督)で映画初主演。その他近年の出演作に、『間借り屋の恋』(21/増田嵩虎監督)『福田村事件』(23/森達也監督)などがある。

PHOTOGRAPHER:TAKUROU MIYAZATO,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE-UP ARTIST:BEAUTY★SAGUCHI(OFFICE BEAUTY)