次の誰かへ、手紙の輪を広げたい

――『鳥と港』では文通をきっかけに知り合った二人がクラウドファンディングで「文通屋」を始めます。文通屋さんというアイディアはどんなところから生まれたのですか?

佐原 まず、私自身が今現在も文通をしているんです。そのことをエッセイに書いたことがあって、目を通してくださった編集さんとの間で、文通を使って何かできないかなという話になったんです。文通を仕事にしている人たちがいたら面白いし、そういうサービスがあってほしいなと。


――日常的にお手紙を書かれているんですね!

佐原 結構書いているほうだと思います。文通の相手は、一人は友人ですが、もう一人は読者の方です。

――どういうきっかけで読者の方と文通するようになったんですか?

佐原 文通相手が欲しい方がいたらぜひどうぞ、とエッセイに書いたら出版社にお手紙を送ってきてくださいました。封筒や便箋、文章の雰囲気とどれも素敵なお手紙で。それから今もお手紙のやり取りをさせていただいています。

――思い出に残っている文通のエピソードなどはありますか?

佐原 小学生のときにクラスメイトの子と少し変わった文通をしていました。近所に神社があって、境内に大きな木があったんです。その木に洞のような穴が開いていて、そこにお互い手紙を入れて回収しあう、という。

――まさに小説のワンシーンのようですね!

佐原 あの頃にやっていた文通がすごく楽しかった記憶があったので、今回の小説でも自然とモチーフが出来上がったのだと思います。最近印象に残っているのは、封筒の中に手紙とは別に、何も書いていない便箋が一枚入っていたこと。手紙のマナーかもしれませんが、その人はその一枚を返信用や、違う誰かに手紙を書くために入れてくれているのかもしれない。それがとてもうれしかったんです。以来、私も手紙を書くときは「よかったらこれで次の誰かに手紙を書いてみてください」という気持ちを込めて二、三枚便箋を同封するようにしています。手紙の輪を広げていくみたいな(笑)。

――手紙を書くときって、メールやLINEと違って少し背筋が伸びる感じがあります。

佐原 雑な言い回しができなくなりますよね。LINEではスタンプひとつで済ませられるけど、手紙では書けないし、簡単に言葉を走らせることができません。LINEでは用件とそれに対するリアクションが積み重なっていきます。手紙だと、『徒然草』の冒頭の「つれづれなるままに~心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば」みたいに、遠回りできる感じがとても好きです。