フルアルバムは絶対に自分が納得する1枚にしたいと思った

――文坂さんは2020年より現在の名義で活動を始めました。今年1月に1stアルバム『だけど、わたし、アイドル』をリリースしましたが、これまで精力的にシングルとEPをリリースしてきたことを考えると、けっこう時間がかかりましたよね。

文坂なの(以下、文坂) 自分の中でアルバムは敷居が高くて。フルアルバムは絶対に自分が納得する1枚にしたいなと思っていたら、結構時間がかかっちゃいました。

――あらゆる作業をご自身で行うセルフプロデュース・アイドルということで、今日はどのように楽曲制作を行っているのか、1stアルバムに参加されているアーティストさんを例に紐解いていただこうと思います。

――まず、どういう流れで発注をしているんですか。

文坂 昔から良い曲だなと思ったら、作曲家さんのクレジットを見るほうで。アイドルを始めてから、自分の曲を作ってほしいと思っていた方に、自分で連絡を取ります。

――誰かの紹介などではないんですね。

文坂 面識のない方が大半です。基本的にホームページの問い合わせフォームやSNSのDMから連絡するので、返信がないことも多いですね。

――たとえば文坂なの名義でリリースした最初のシングル「愛わずらい」を手掛けた佐々木喫茶さんは、どのように依頼したのでしょうか。

文坂 もともと喫茶さんはアイドルさんに提供している曲がたくさんあって、中でも80年代チックな曲が大好きだったんです。いつか曲を作ってもらいたいなと思っていて、もちろん面識はなかったんですけど、メールを送ったらお返事をいただき、制作していただくことになりました。

――事前に、こういう曲を作ってほしいという具体的なイメージを伝えるんですか。

文坂 そうです。初めてお願いする方に絶対お伝えするのは“80年代っぽさ”と“懐かしいけど新しい”というテーマで、それに加えて、「今こういう曲が欲しい」みたいなことを細かく伝えます。ただ「愛わずらい」のときは、あんまり要望を伝えなかったんです。ただ「アイドルっぽい盛り上がりのない曲でお願いします」ということはお伝えしました。

――盛り上がりのない曲というと?

文坂 ライブで盛り上がるようにと気遣ってくれて、「イントロを長くしてコールを入れやすい曲」みたいなのを作ってくれる作家さんが多いんですが、そういうのは一切気にせずに書いてくださいと。あとタイトルに“愛”を入れてくださいと言いました。喫さんも、そういう発注が初めてだったみたいで、すごく印象に残っていると言われました。

――ライブアイドルのフォーマットみたいな曲にはしないでほしいということですね。

文坂 その後、喫茶さんには「好印象な恋しよう」「C級noロマンティック」を書いていただいたんですが、この2曲に関しては何の要望も伝えていないです。それでも私の意図を汲んでくれるので、喫茶さんはすごいです!

――この3曲は編曲も喫茶さんですがレコーディングにも立ち会うんですか。

文坂 喫茶さんにはディレクションもしてもらっています。喫茶さんに限らず、作曲してくださった方にディレクションをしてもらいたいんですが、「レコーディングはノータッチです」という方のときは、昔の名義のときから録ってくださっているエンジニアさんがいるので、大阪で録ったデータを作家さんにお送りします。

――喫茶さんのディレクションはどのようなものなのでしょうか。

文坂 私はレコーディングに時間がかかるほうなんですが、喫茶さんはめっちゃ早く終わるんです。「愛わずらい」のときも、初対面というのもあったので時間がかかると思って、帰りの新幹線を遅めに取ったら、スタジオに入って1時間で終わって。おそらく喫茶さんの中で「これが正解」というのが頭にあって、そこにバチッとハマったんですよね。