80年代女性アイドルの歌い方が自然と染み付いている

――アルバムで最も多くの楽曲を提供しているのがLASTorderさんです。

文坂 LASTさんも、もともとアイドルさんに提供している曲を聴いていて、めっちゃいいなと思って連絡を取ったんです。初めてご一緒させていただいた曲が「さよならクリエーター」なんですが、LASTさんは珍しいパターンで、最初にこういう曲を作ってほしいんですという要望を伝えたら、デモ音源が3曲届いたんです。普通は1曲ですからね。しかも全曲良くて、悩みに悩んで「さよならクリエーター」を選ばせていただきました。

――曲調なども細かく要望を出すんですか。

文坂 出します。早めのBPMにしてくださいとか、夏の曲がいいとか、シティポップ調とか。

――たとえば「シティポップ調」という発注でできた曲はどれですか。

文坂 シティポップ調が「やさしいひと」です。

――なるほど!確かにイメージ通りの曲です。LASTさんは作詞だけ担当していることもありますよね。

文坂 お願いした作家さんが「作曲だけやってます」という場合は、大体LASTさんに作詞をお願いします。LASTさんは曲も好きなんですが、歌詞も良いんですよね。

――LASTさんが作詞のみ手がけた曲だと、「新都市遊泳シルエット」なんて80年代のアーバンさが漂う秀逸なタイトルですよね。

文坂 タイトルも作家さんにお願いしています。

――「輝きin my love」の作詞は文坂さんとLASTさんの共作ですが、どういう風に作業を進めていったんですか。

文坂 この曲は作曲が宮野弦士さんで、「ハッピーな曲」みたいな要望を出して作っていただき、最初は自分で作詞をしようと思ったんですが、歌詞を乗せるのが難しくて。一人じゃ無理だなと思って、LASTさんに「一緒に考えてもらえませんか」とお願いしたんです。私の作詞方法が、最初に曲を聴いて浮かんだフレーズや、日常で浮かんだフレーズをメモに残して、その中からピックアップしていくんです。その組み立てをLASTさんにやってもらいつつ、LASTさんのテイストも織り交ぜていただきました。

――この曲が初めての作詞ですか?

文坂 昔の名前のときは、ほぼ自分で作詞をしていたんです。文坂になってからは、作家さんが好きで楽曲制作を頼んでいるから、やっていただけるなら歌詞も書いてもらいたいなと思っていて。だから最近は自分で書くことも少なくなりました。

――自分で作詞をしていたときも曲先だったんですか?

文坂 ほぼそうだったんですが、曲に合わせて書くのって、めっちゃ難しいんですよね。だから先に歌詞を提出させていただくこともありました。

――「妄想ワンルームワンダーランド」を手掛けた涼木シンジさんは、どういう経緯で発注したんですか。

文坂 シャッフル再生で流れてきた涼木さんの曲が好きで、いつか書いていただきたいなと思っていたんです。それでアルバムの1曲目を書いていただく方を考えていたときに、涼木さんはアップテンポの曲が素敵だったので、この機会にとお願いしました。

――アルバムの中では、ちょっとテイストが違いますよね。

文坂 そうですね。あんまり昭和感はないけど、よく聴いたら昭和っぽい音も使われているんです。

――文坂さんの歌い方からは80年代の女性アイドルの影響が感じられますが、意識していたりするんですか。

文坂 特定の誰かを意識するということはないんですが、中森明菜さんを始め、その頃の女性アイドルさんの曲を、ずっと聴いてきたから、その影響だと思います。当時の女性アイドルさんって語尾を上げて歌うじゃないですか。それを私も無意識にやっていて、初めて指摘されたときは驚きました。それぐらい染み付いちゃっているんですよね。

――歌のレッスンを受けた経験はあるんですか。

文坂 定期的にボイトレに通っています。よく言われるのが「文坂さんは、歌は上手くないけど、歌声が良い」で、ほんまに全員が全員、そう言われるんです(笑)。先日、音楽プロデューサーの加茂啓太郎さんが雑誌で私のアルバムを紹介してくれたんですが、やっぱり「歌は上手くないけど」みたいなことを書かれていて。ボイトレの先生からも、「文坂さんは歌唱力を伸ばすトレーニングをするのではなく、もっと声を続けて出せるようにして、苦しくならないような歌い方にするとか、そっち方面を伸ばすトレーニングにしよう」と言われています。だから本当に歌は上手くないです(笑)。

――そんなことはないと思いますが(笑)。確かに80年代の女性アイドルは、歌唱力よりも表現力で聴かせる方が多いですよね。

文坂 ヘタウマみたいな感じですよね。私も最初は「上手くないんだ……」とショックだったんですが、みんなから言われますし、結果的に褒めていただいているのでうれしいです。