演出家とキャストが対等な立場で会話をして一緒に作り上げている感覚

――舞台『神話、夜の果ての』はカルト宗教とその施設で育つ子どもたちの物語で、宗教に関わる重大事件の中で、信仰する者とその子どもがどういった精神世界にいるのかを描きだします。本作は川島さんにとって初めてのヒロインでの舞台出演になります。どのようにオファーがあったのでしょうか。

川島鈴遥(以下、川島) 作・演出の詩森ろばさんが『神話、夜の果ての』の脚本を書いていたときに、ヒロインのシズル役に当てはまる人がいないから、男の子に変えようかみたいな話になりかけていたそうなんです。そんな中、うちのマネージャーさんが、詩森さんと知り合いで、私を薦めてくださって。詩森さんが私の映像資料を見て、シズル役に決めていただいたそうです。

――川島さんが出演した、昨年から今年にかけて放映されたドラマ『仮想儀礼』(NHK BSプレミアム4K)も宗教がテーマでしたよね。

川島 初めて台本を読んだときは、そこまで『仮想儀礼』で演じた役とはリンクしていると感じなかったんですが、稽古を重ねるにつれて、考え方などに通じるものがあって。もしかしたら、そこにビビッときて詩森さんは私を選んでくださったのかもしれません。

――台本を読んだ印象はいかがでしたか。

川島 まず簡単に扱えるような作品ではないなという印象があったんですが、物語というよりも、最初はセリフ量に目が行ってしまいました(笑)。キャストは5人で、ずっと舞台上にいて、会話劇で回していかなきゃいけない。各自が膨大なセリフ量で、それをぶっ通しで1時間半やるんだと思うと、怖くて先に進めないというか……。なかなか物語が入ってこない部分もあって、それでは駄目だと思って、覚悟を決めて読みました。そのときに浮かび上がってきた切なさ、怒りなど、複雑に渦巻いた感情が心に響いたのは覚えていて。その感情がどうして湧き上がったのかは、脚本を読んだ段階では理解できなかったんです。それを稽古で見つけていくんだろうなと思いました。

――心情を言葉で伝えるような、説明的な会話劇ではないということですね。

川島 そうです。なぜこの施設にいるのか、主人公のミムラはどういう人物で、どういう人生を歩んできたのかなどは、本人以外の人物のセリフで語られていくんですが、「今悲しいです」みたいに感情を説明するセリフは一切ないんです。ト書きも必要最低限なので、ここで笑う、ここで泣くといった表現は、役者が構築するものなんだなと。台本上では、どういうシーンになるのか分からないから、そこの怖さもありました。でも、それを楽しみつつ本読みから立ち稽古に入って、回を重ねるにつれて明らかになっていくシーンもあって、言語化はできないけど、肌で感じるものがありました。

――そういう心理的なことは、役者さんそれぞれが考えてくださいということでしょうか。

川島 だと思います。詩森さんから心理的な説明はないですし、具体的な動きの指示もないんです。立ち稽古で「1回やってみてください」と言われてやってみて、「今のばっちりでした」とか、違った場合は、「私はこう思っていますけど」と詩森さんが思いの丈を語ってくださった上で、「鈴遥ちゃんはどう思っている?」と聞いてくださって、解釈の部分を噛み砕いていくんです。演出家さんとキャストというよりは、対等な立場で会話をして、一緒に作り上げていくという稽古場なので、安心できる場所ですし、キャストに信頼を置いてくださっているんだなと感じます。