リアリティを重視したガンアクションのこだわり

――梅沢監督の演出はいかがでしたか。

黒沢 基本的に私が投げかけたことに関しては、今まで通り誠実に、きちんと分かる言葉で伝えてくれました。今回、ユリがピストルを持つシーンがあるんですが、私自身、国内外問わず、そういったシーンのある作品を幾つも観てきたので、一旦それをお手本にしてやってみたんです。そしたら私が表現したものに対して、「それはリアリティに欠けるから、そうじゃないほうがいい」と梅沢が言うんです。「この表現のほうが心情として分かりやすい」みたいなことを私が言ったら、「ユリという女性のバックグラウンドを考えると、そういう所作にはならない」と確固たる意志を見せてくれました。そこに関しては今までにない指導方法だと思いました。

――梅沢監督はどういうガンアクションを求めていたのでしょうか。

黒沢 一番は構え方です。特別なことをせずに、ただ構えることがプロであると。ありがちなのが腕を揺らすみたいな感じで、ついつい一癖入れてしまう。それではプロっぽく見えない。銃を扱ったことのある人間だったならば、そういう遊びのさせ方はしはい。短いシーンだからこそ、そこだけはきっちりやってもらいたいと念押しされました。

――バイオレンスシーンもありますが、これみよがしではなく、抑制されているからこそ生々しさが際立つなと感じました。

黒沢 そうなんですよね。撃たれて血の広がるシーンにしても、ユリが相手のどこに一発撃ち込むかによって、残虐度は違うんです。もちろん撃たれる側の俳優さんの、演じるにあたっての想像力によっても大きく変わってくる。血の海を効果的に見せるために一発目を大事にして、後はさらっと描く。そういう見せ方に関しても、梅沢は子どもの頃からたくさんの映画を観てきて、映画監督になりたいと思っていたところ、途中で特殊メイクに惹かれて、そっちの道で一生懸命やってきた。そうして積み重ねてきたキャリアが見える演出でした。

――青々と生い茂る森を俯瞰でとらえた冒頭のシーンから、禍々しい雰囲気が立ち込めていましたが、どちらで撮影されたんですか。

黒沢 東京の日の出町です。スタッフとして関わってくださった方が、他の現場で行ったらしく、いい場所があると勧めてくれたんです。あの森をドローンで撮影したことで、今仰っていただいたようなイメージを増幅させる効果があったのではないかと思います。

――ユリが訪れる工事現場はセットですか。

黒沢 あれはセットではなく、うちの近所に実際あったものです。もともと何もない山だったんですが、徐々に開発されて、山を削って、一つの町を作るという途中段階だったんです。それを時間軸に沿って、3段階で変わっていく様子を撮影しました。自然側から見ると、綺麗な緑、森、山が人間たちによって破壊されていく。でも同じ風景をユリ側から見ると、空白の時間を過ごした森が開発されて、新しい町が出来上がっていく。それはユリの成長や、これから始まる人生がどのようなものになるのかという問いかけにもなっているのかもしれません。

――その他に、黒沢さんが印象に残っているシーンはどこですか?

黒沢 スパゲティを食べているシーンは、テレビでドキュメンタリー番組が流れているんですが、一つひとつの言葉を聞いていくと、ユリのバックグラウンドが語られているという差し込みでもあるんです。ユリという女性が、どういう歩き方をしていくのか、人生観というものも見て取れるシーンではないかなと思います。