役者が自由にやっている中で、面白いものを見つけるのが上手い監督

――全体を通して、“間”を大切にした映画だなと感じました。

田中 ワークショップもそうですし、たくさんの作品に出演させていただいて、いろいろな方に教えていただいた中で、「役者が楽をしたらつまらないものができる」という考えの方がいて。もちろん私も賛同しますし、楽な芝居ばかりしていたら刺激的なものも生まれないし、見る人の心を動かすこともできないと思います。計算され尽くした中でやるのがプロだと思うんですが、道本監督はまた違う味付けの仕方をされるんですよね。役者が自由にやっている中で、面白いものを見つけるのが上手いんです。逡巡する気持ちなどを大切にされている方だから、“間”を重視しますし、今回の映画では私に限らず、みんながそういう演技を心がけていたと思います。

――たとえば田中さん演じるナオが部屋の中で物思いに耽るシーンは、かなりの長回しで、言葉ではなく動きから心情が伝わってきました。道本監督から、このぐらいの時間を使って演じてほしいみたいな具体的な指示はあったんですか。

田中 そこまで具体的な指示はなかったんですが、「もっと間をとっていいよ」と言われました。私はせっかちなので、こんなに間をとっていいのかという不安もありましたし、こんなに私だけのシーンに時間をとっていいのかなという怖さもありました。ただ今回はリハーサルにたくさんの時間を割いていただいて、道本監督とも何度も話し合ったので、自分としても、役としても納得できる、意味のある間で本番に臨めたのかなと思います。

――ナオがカメラを持って大阪の街を歩く姿が、手持ちカメラで生き生きと映し出されていましたが、このシーンはどういう指示があったんですか。

田中 事前に「田中さんの行きたい方向に行って。それについていくから」みたいなことを言われて、大まかな道筋は後ろから指示されるんですが、実際に散歩しているような感覚で歩きました。

――役作りのために、カメラを持って写真家の方と一緒に街を練り歩いたり、日常生活でもカメラを持って歩いたりしたそうですね。

田中 もともとデジカメの一眼レフは大学時代に買って持っていたので、ワークショップの時点でナオを理解するために持ち歩くようにしていました。役が決まった後にフィルムカメラを支給していただいて、それを実際に使って日常を撮ったりしていました。

――デジカメとフィルムカメラでは全く違いますよね。

田中 1枚の重みがありますし、フィルムカメラはオートじゃないので、露出なども勉強して。夕方になったら撮れないなとか、これぐらいの光が必要だなとか肌感でだんだん分かるようになっていきました。

――写真を現像するシーンもあります。

田中 現像に関しても、自分で現像の仕組みなどを勉強しました。知った上でやらないと、体に馴染まないんですよね。実際に本番でやるとなると分からないことばかりだったんですが、あたかも「いつも現像やってます」みたいな立ち居振る舞いを意識しました(笑)。

――道本監督は本作が長編映画デビュー作になりますが、演出の印象はいかがでしたか。

田中 先ほどもお話ししましたが、すごく言葉を選んで、言葉を紡ぐように演出してくださるので、それを役者が理解して、役に落とし込もうという気持ちでやっていました。リハーサルの時点で、みんなで話し合って、互いに役を作ってきたので、信頼関係もできあがっているんですよね。みんなで一緒に固めていける感覚があって、結束力のある現場でした。