幼少期からの寂しい気持ちを引っ張り出してナオを演じた

――ナオは不器用で、一つのことに集中すると周りが見えなくなって、ときに周りを振り回してしまいます。共感する部分などはありましたか。

田中 私自身、子どもの頃から「変な子」と言われ続けてきました。どこか人と壁があったり、距離を感じたりして、寂しい思いをすることもありました。今回、幼少期からの自分を振り返って、そういう寂しい気持ちを引っ張り出したんですが、すごくナオに似ているなと感じました。ただナオを取り巻く3人の気持ちも共感するところがあって。オーディションなどで、女優さんの素晴らしいお芝居を目の当たりにしたとき、どうやったらそんなアイデアが生まれるんだろう、どうやってその役作りをしたんだろう、私にそれができるのだろうかと自分に1回落とし込むんです。そういう面では、ナオの才能に嫉妬する小夜の気持ちも理解できました。

――ナオを演じる上で意識したことは?

田中 私自身、変わったことをしているつもりはないのに、周りから変な子だと思われて、ちょっと距離を取られることが多い人生だったので、そこまでナオが遠い存在ではなかったんです。ただ最初に道本監督から、「ナオは人から愛されやすいタイプ」という説明があったので、周囲から浮いているだけではなく、めちゃくちゃ周りから必要とされている人でなきゃいけないと思いました。ナオの発する言葉には、文字にすると人を傷つけるようなきついものもあって。そのまま言うと嫌な奴なので、その言い方も悩みました。

――確かに言葉だけ抽出すると、社会不適合者のような印象も与えかねないですよね。

田中 どうにか愛されるナオになるために、人間らしいところを見せたり、隙を見せたり、自然と頑張っているところを見せたり。何をするにも悪気がない人というところを意識して演じました。

――小夜、山田、多田と同じ写真学科に通う3人といるときの空気感が、本当の大学の仲間という雰囲気が漂っていました。

田中 私的には4人でいるときの空気感を掴むのが難しくて。4人の中だと、あまりナオは喋るタイプではないので、言葉では場を掌握できないんですよね。存在感で場を掌握しなきゃいけないんですが、それは私だけの力ではなくて、3人の役者さんとのバランス、声のトーン、間などが重要で。それをすり合わせる作業が一番難しかったかもしれません。

――激しく感情をぶつけ合うようなシーンもないので余計に難しいですよね。

田中 ラストシーンまで4人がワイワイするシーンもないので、「本当に仲いいの?」みたいな感じになるのも怖いし、ヒリヒリするシーンでも、その塩梅が微妙というか。

――でも実際に友達同士でいると、そんなものですよね。

田中 そうなんですよね。実際に仲の良い友達で喋っていたら、無駄に笑ったり、相槌を打ったりってあんまりないと思うんです。それって気を遣っている相手だからやることであって、毎日一緒にいるとそういうことはしない。道本監督もそれを求めていて、「変に笑わないでいいよ」みたいな。それが逆に難しいんですけどね(笑)。

――初めて完成した作品を見た印象はいかがでしたか。

田中 ナオの中ではいろいろな思いがあるんですが、感情の起伏が目に見えて大きくないので、本当にナオが作品の軸になっているのか、どこまで説得力を持たせられているのかという不安があったんです。完成した作品を見ると、他の役者さんたちがナオを感じさせてくださるというか、ちゃんとナオを思ってお芝居をしてくださっているんですよね。だからこそナオが軸にいて、周りに魅力的な人がいてという構図になっていることに感動しました。

――最後に映画の注目ポイントをお聞かせください。

田中 今回、身を削って、ナオに向き合わせていただきました。実際にフィルムカメラを持って何時間も歩いて、知らない人に声をかけて役作りをしたときもありました。撮影が進むにつれて、考えることや思い詰めるシーンも増えていって。おそらく映画を見ていただいたら分かると思うんですが、徐々にナオがげっそりしていくんです。意識してそうした訳ではなく、ナオを演じていたら、自然とそうなっていったんですよね。それぐらい私も、道本監督も、他の役者さんも、スタッフさんも、みんなが身を削っていたんです。それが映画の青々しさに繋がっていると思うので、ぜひ映画館で見ていただきたいです。

Information


『ほなまた明日』
新宿 K’s cinema ほか全国順次公開

田中真琴 松田崚汰 重松りさ 秋田卓郎
大古知遣 ついひじ杏奈 越山深喜 ゆかわたかし 加茂井彩音 福地千香子 西野凪沙

監督:道本咲希
脚本:郷田流生 道本咲希

大阪。大学卒業を控えたある年の夏。写真家を目指す芸大生の草馬ナオ(田中真琴)は、写真中心の生活を送っていた。同じ写真学科の小夜(重松りさ)、山田(松田崚汰)、多田(秋田卓郎)は、写真に夢中になるあまり、人としてはどこか不器用なナオに振り回されつつ、その才能を認め彼女を応援していた。人生の岐路を前に、写真の本質に近づこうとするナオの情熱は、否応なしに3人の心をざわざわと揺らし、嫉妬や焦燥を生み、それぞれに“選択”を迫っていく。卒業後、写真家となったナオは、小松、多田と久々の再会。そこで山田が失踪していることを知る。

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田中真琴

1995年1月30日生まれ。京都府出身。ドラマや映画、舞台と多方面で活躍中。主なドラマ出演作に、「インビジブル」(TBS)、「夕暮れに、手をつなぐ」(TBS)、「ミス・ターゲット」(ABC)、「アンチヒーロー」(TBS)。主な映画出演作に『魔法少年☆ワイルドバージン』(19)、『異物 -完全版-』(22)、『道草』(22)など。

PHOTOGRAPHER:YASUKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:AYAKA SUGAI,STYLIST:KANAE MAKI
衣装提供:ドレス¥104,500(ミューラル/ザ・ウォール ショールーム) 靴¥11,900(チャールズ&キース/チャールズ&キース ジャパン) ピアス¥28,600(アミティエ・クレディール/ロードス) バングル¥3,900(soie/ロードス)
問い合わせ先
ザ・ウォール ショールーム
チャールズ&キース ジャパン
ロードス:03-6416-1995