限界を作らず、自分が表現できるものは精一杯やっていく
――遥海さんの役者としてのキャリアについてお聞きしたいのですが、まずアーティストとしてデビューしたのち、2020年にミュージカル『RENT』にミミ役として出演、そこから歌手活動と並行して俳優業もスタートさせています。そもそもミュージカルに挑戦しようと思ったきっかけはなんだったんですか?
遥海 もともとミュージカルは大好きだったんです。子どもの頃はフィリピンに住んでいたんですけど、レア・サロンガという歌手が、初代の『ミス・サイゴン』のキムや、『レ・ミゼラブル』のファンティーヌを演じられている姿を見てから、「ミュージカルっていいな」と思ったんです。だから、『RENT』のお話をいただいたときも、私がそのミュージカルを元々知っていたことと、ミミという役も歌がメインなので、演じることに対してはシンガーとしての延長線に近い感覚がありました。でも、実際にやってみたらすごく難しい。舞台の演出家のアンディー(・セニョールJr.)には「舞台上では嘘はバレるから」と厳しいこともたくさん言われましたが、ずっと安全地帯にいる自分が、ミミとしての演技をするためにはそういう殻を破らないといけない。きつかった分、アンディーも真摯に向き合ってくれたので、彼との出会いは自分の中で大きいです。
――そこで人間的にも成長ができた。
遥海 人としても変わりました。自分は今まで人に合わせてきた部分が多かったんだなって気づいて。自分の声をどれだけ発信していかなきゃいけないのか、その大切さもアンディーに教えてもらいました。
――ミュージカルならではのやりがいはどういうときに感じますか。
遥海 たぶんですけど、私は葛藤するのが好きなんです。ドMって言われるんですけど(笑)。悩んでいる瞬間が成長の手前というか、普通に歌っているだけじゃ得られないものがミュージカルの中にはすごくあって、ミュージカルを始めたからこそ、歌手として活動するときの表現の幅が広がったなと思います。ミュージカルは100%の表現力を求められている場所なので、ただ上手く歌うよりも、ちょっとした崩れが歌の顔になるんです。綺麗に歌うことだけが正解じゃないんだと自分も歌手として思えるようになったのは、やっぱりミュージカルの存在が大きかったなと思います。
――歌手としての活動の幅の広がりにも影響を与えていると感じますか?
遥海 こういう曲は私だったらこう歌うなとか、そういう引き出しが今までよりたくさん出てくるようになりました。あとは人との出会いも大きいと思います。28歳にもなると怖いものってどんどん消えていくんだなって。30代になったらどうなっちゃうんだろうってちょっと思います(笑)。
――今後も歌手活動と並行して、ミュージカル出演は継続してやっていきたいと考えていますか?
遥海 やっていきたいと思います。もちろん自分が発信していきたいこと、自分の形を作るという意味では、歌手活動は絶対に続けていきたいです。だけど、ミュージカルで自分のお芝居を求められるのであればやり続けたい。ミュージカルは見るのも演じるのも大好きだから。これからも限界を作らず、自分が表現できるものは精一杯やっていきたいです。
Information
『はじまりの日』
2024年10月11日(金)より全国ロードショー
出演者:中村耕一、遥海、高岡早紀、山口智充、岡崎紗絵、羽場裕一、秋野暢子、麿赤兒、竹中直人ほか
監督&脚本&プロデュース:日比遊一
劇中歌プロデュース:Mayu Wakisaka (ソニー・ミュージックパブリッシング)
かつてロックスターとして一世を風靡した「男」(中村耕一)。ある事件がきっかけで、音楽を封印し、ビルの清掃会社で働きながら質素に暮らしている。仕事場とアパートを往復し、生きる意味を問う事すらしない男の日々。かつて男のファンだった同僚の寺田(山口智充)が唯一心ゆるせる相手だ。男の隣人は会社の同僚の「女」(遥海)だった。夜な夜な女と母親(高岡早紀)の激しいやり取りが男の部屋に響き渡ってくる。ある日、公園で一人口ずさむ女の歌声に大きく心を揺さぶられる男。それをきっかけに男の日々は、ゆっくりと動き出す。男は、女の才能を確信し、昔の同僚である音楽プロデューサーの矢吹(竹中直人)にその歌を聴くよう頭を下げる。矢吹に断られながらも通い詰める男。女の可能性を信じたアシスタント望月(岡崎紗絵)のサポートもあり、女は次第にチャンスを掴んでいく。そして男もまた自分の歌が、他人の心に灯をともすことに気づかされる出来事が……。
PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TETSU TAKAHASHI
衣装協力:Jacket 、Tops、Pants / DRESSEDUNDRESSED Shoes / VEGE