いろいろな役に出会って、その役の生きざまや価値観を知りたい
――俳優を目指したきっかけは?
山﨑 高校2年生のときに、学校の授業で「人権映画会」というのがあって。みんなで人権について考えようということで、『手紙』(06)という映画を観たんです。犯罪加害者の家族の方の苦しみを描いた作品で、「こんなに泣けることがあるんだ」というぐらいボロボロ泣いて、心が洗われるような気持になったんですよね。そのときに映画って、普段は縁がないけど、社会のどこかで起こっていることを自分ごととして考えるきっかけになる力があるんだなと感じて。次の日に演技のレッスンを受けに行きました(笑)。
――行動が早い(笑)。
山﨑 そのレッスンを通して、演技について、自分について知っていく中で、もっと自分の気持ちを深く感じたい、誰かと真摯に交流したい、想像力を持って世界や人に優しくなりたい、人の本質的な部分に触れたい……いろいろな思いが芽生えたのもありますし、元々あった表現するのが好きという気持ちも相まって、俳優になることが人生の目標になりました。
――キラキラした世界に憧れて、みたいな理由ではなかったんですね。
山﨑 もちろんキラキラした世界なのかなという憧れもあったのですが、本気で俳優になりたいと思ったのは、映画の力を知って、人間を知りたいということが大きかったです。それで俳優になるには上京しなければいけないと思って、進学も東京の大学に決めました。
――具体的にどうやって俳優の道に進んだんですか?
山﨑 上京したと同時に芸能事務所に応募して、以前の事務所に所属することになりました。
――ドラマ、映画、舞台、ミュージックビデオなど、幅広い作品に出演していますが、中でも印象に残っている作品は何でしょうか?
山﨑 今年の朝ドラ『虎に翼』です。ヒロイン寅子のクラスメイト・佐野光子役で出させていただいたんですが、たくさん出て来るキャラクター一人ひとりにしっかりとした設定があって、放映期間の長い現場に携われたことは非常に大きな経験でした。まだ女性の社会進出が難しかった時代に、弁護士を目指す彼女たちの情熱や生きざまに触れられたことで影響を受けた部分もあって、強い女性は素敵だなと思いました。
――どんなときに俳優としてのやりがいを感じますか。
山﨑 役と向き合うことで、自分の知らなかった部分と出会えることにやりがいを感じます。そして個々の俳優が持ち寄ったものが合わさって、化学反応で新しいものが生まれる。どの現場も一人ではできないものですし、衣装、ロケーション、美術なども役作りに反映されて。いろんな方に出会うたびに、新しい何かに出会えることが楽しいですね。
――今年9月から岡田准一さんが設立した事務所「AISTON」に所属しました。
山﨑 岡田さん、植木祥平さん、マネージャーさんのお話を聞くたびに、こういうことをしていきたいという気持ちや自分の課題が見えてきて、それに向き合う日々は充実していますし、より生活の密度が濃くなったなと思います。みなさんのアドバイスによって、自分が変わっていくスピードが加速されたという感覚です。
――今後のビジョンをお聞かせください。
山﨑 いろいろな役に出会って、その役の生きざまや価値観を知りたいというのが大前提としてあるんですが、いただいた役を全うするには、それに見合う器になれるように、自分に向き合っていきたいです。
――最後に改めて『カフネ』の見どころをお聞かせください。
山﨑 堕胎した経験のある方から、「当時のことをすごく思い出しました。そのときに『カフネ』を観ていたら誰かに相談できたんじゃないかなと思います。多くの方に観てもらいたいし、観てもらうべき映画だと思います」という感想をいただいたんです。その言葉に勇気づけられましたし、女性だけではなくて男性も感じてもらえるところは多々あると思います。澪の生き方、澪に向けられている愛の形、各キャラクターの心情の変化、全てが素敵だなと思うので、いろんな感情を感じながら観ていただき、何かが伝わったらうれしいです。
Information
『カフネ』
東京・ポレポレ東中野で10月31日(木)まで公開
大阪・シアターセブンで11月2日(土)〜14日(木)公開
山﨑翠佳
太志 松本いさな 木下隼輔 澤真希 渡辺綾子 杵村宙郎
桜一花 入江崇史
監督:杵村春希
脚本:千葉美雨
撮影:髙本優
プロデューサー:吉田光歩
高校三年生の瀬川澪(山﨑翠佳)は、彼氏である遠山渚(太志)との間に、子を妊娠してしまう。澪は、妊娠したことを渚や家族に打ち明けられずにいたが、たった一人、親友である峯田夏海(松本いさな)には話すことができた。澪は、様々な困難に直面しながらも、今まで言葉にしてこなかった気持ちを伝えるために、渚の元へ向かう。世界遺産の街・熊野市を舞台に、この街に生きる彼らの、これまでと、これからを描く。少女と少年の「恋ではない、なにか。」の物語。
PHOTOGRAPHER:YASUKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI