自分じゃない誰かに身体を乗っ取られて表現しているような感覚

──美雨さんともなさんからも、グループ加入の経緯を教えてください。

美雨 私の場合、歌もダンスも完全な未経験者だったんです。ただ、小さい頃からボーカロイドや歌い手さんの文化がすごく好きでした。自分自身の話をすると、将来やりたいこともあまりなくて、自分の生きがいを探していた時期だったことも大きかったかもしれません。そのタイミングでAdoさんがオーディションをするというのを見つけて、「私もなにかを表現したい」と立ち上がることにしました。私自身、これまで何度もAdoさんの歌に救われてきたので、今度は自分がみんなに力を与える側になりたいと思ったんです。

もな 私も音楽はずっと好きでした。でも「アイドルになりたい」「舞台に立ちたい」というのは非現実的だから、ずっと自分の胸の中にしまいこんでいたんです。ターニングポイントになったのは、学生時代にやった有志発表会。そこで友達と一緒に4~5曲歌ったんですが、そのときに舞台から見た景色が信じられないくらい眩しかったんです。それまでの人生で味わったことのない高揚感や緊張感がありました。そこで決定的に「アイドルになりたい」という気持ちが固まりました。このオーディションを受けた理由は、Adoさんがプロデュースしているという点はもちろんですが、表現力重視のグループというのも大きかったです。

──たしかにそこはポイントかもしれません。今のアイドルシーンは、どちらかというとダンスを重視するグループが目立つ傾向にありますし。

もな オーディションの段階から歌唱力を重視されていたと思いますが、歌唱力も要するに表現の一部じゃないですか。ダンスや表情も含めて、最終的にひとつのパフォーマンスにしていくものかなって。だから今は「歌が上手くなりたい」というよりも「曲に合う歌を届けたい」という気持ちが強いです。

──そのオーディションですが、印象に残っている出来事はありましたか?

美雨 私と灯翠は同じチームだったんですが、特に合宿ではたくさん泣きましたね(笑)。二人とも体内から水分がなくなるのではと思うくらい、泣きじゃくりました。

灯翠 他のみんなも泣いていたのですが、私と美雨はレベルが違っていたかも(笑)。

美雨 「歌が上手い」「ダンスが上手い」というだけで勝てるような簡単なオーディションではなかったんです。勝ち抜くためには自分の個性、自分だけの表現を出していかないといけなかった。その“自分だけの強み”を探すのが本当に苦しくて……。

灯翠 私もまったく同じ理由で泣きました。思い出すだけでも、ちょっとだけ苦しいです(笑)

──そんなファントムシータですが、1stアルバム『少女の日の思い出』が10月30日にリリースされます。

美雨 ファントムシータの全てが詰まった名刺代わりのアルバムに仕上がりました。本当にどの曲も、様々な角度からレトロホラーが表現できています。既存の5曲はもちろんですが、あとの2曲もすごく魅力的なんですよ。

──最初に聴いた際、特にインパクトの強かった曲はありますか?

百花 私は「ゾクゾク」に驚きました。歌詞も特徴的ですし、私たち5人の個性が他の曲以上に強烈に出ています。

凛花 インパクトという意味では、デビュー曲の「おともだち」が一番の衝撃でした。今だから言えますが、「このまま歌詞の世界にズルズル引っ張られたらどうしよう……」という心配もありました。

──歌詞に対して憑依型のアプローチをするグループだから、冗談抜きで歌詞に引っ張られる恐れもあるんじゃないですか?

凛花 それが意外なことに一切ないんですよ。曲が終わった瞬間に、みんなスッと憑依した状態から抜けていくんです。「MCだと印象がまったく違うね」ってよく言われますし。なんて言うのかな……。曲に入っているときは、自分じゃない誰かに身体を乗っ取られて表現しているような感覚なんです。

もな 本当に曲の世界観に没頭していますからね。

凛花 そう。だから逆に私生活にまで影響を与えるようなことはないんです。