集合住宅に住む6人の女性の物語を演じていくというミュージカル的なコンサート
昨年、春に東京と初夏に追加公演として大阪でキャリア初となるソロコンサートを行った玉井は、その後、各地のフェスにも出演したほか、冬には『Billboard Live Tour』を行うなど精力的にソロでの音楽活動を展開。今年も先日、『中森明菜 Tribute Concert “明響”』に出演して話題を集めたばかり。ここでは、新たなライブの可能性を示した玉井詩織のソロコンサート「Maison de Poupée」の模様をレポートする。
タイトルの「Maison de Poupée」は、フランス語で“ドールハウス”という意味。武道館のステージには6色の集合住宅がセットとして組まれ、その集合住宅に住む6人の女性の物語を演じていくというミュージカル的なコンサートになっていた。
開演を告げるブザーが鳴り響くと、プロローグは玉井のナレーションでスタート。人生を螺旋階段に例えて、出会いや別れ、様々な出来事が繰り返されて“いろいろ”な私が存在していると語られると、「⼀夜限りのミュージカルコンサートMaison de Poupée、開幕です」という宣言でライブは幕を開けた。1曲目は今回のライブのために書き下ろされたテーマ曲「Maison de Poupée」。8人のアンサンブルを従えて、ミュージカルの幕開けを飾るように歌って踊り表現する玉井の姿に、黄色のペンライト一色に染まった会場からは大きな歓声が上がる。後半、ステージ上に色々な家具がセットされると、曲の終わりと共に玉井はコートと靴を脱いでベッドの中へ…。
ここからストーリーが本格的に動き出していく。1人目の主人公はAMI。目覚まし時計のベルが鳴り響き、AMIが大きく伸びをしてベッドから起き上がると、6人の分身達(アンサンブル)が「お誕⽣⽇おめでとう!」、「晴れたよ!」、「でも今日は予定なし」、「さみしい30歳」など次々に話しかけてくる。そして、ソロ曲「日常」へ。まさに、日常の風景の中で迎えた誕生日当日の始まりを描いた形だ。身支度を整えたAMIが部屋から街へ繰り出すと、アンサンブルと共に傘をステッキのように持ったり、傘を開いたりしながらミュージカル的な振り付けでダンスを展開していく。「今⽇が特別な毎⽇になるように」という歌い終わりの歌詞が印象的に鳴り響くと、次の曲は「宝石」。昔の恋人から誕生日プレゼントにもらった宝石がキーワードだ。雑踏の中、忘れられない昔の恋人の姿を見つけるAMI。付き合っていた当時の二人の様子が回想シーンのように、昔の恋人役の佐藤海音 / S [龍宮城]とのペアダンスで描かれていく。そして、再び6人のアンサンブルを従えて「Eyes on me」へ。この曲では、仲間から祝福される誕生日パーティーの様子が描かれ、生き生きとした表情で歌って踊る姿や「新しい私のドラマが始まる 自分史上最高のStyleで華麗に生きよう」といった歌詞からは、誕生日を機に気持ちを新たにして前向きに歩んでいくと決めたAMIの強い意思が感じ取れたのではないだろうか。
このように、最初のブロックでは「日常」、「宝石」、「Eyes on me」という玉井のソロ曲3曲を通じて、30歳の誕生日を迎えたAMIの心境の変化や成長を表現。このブロックで今回のライブの演出意図や楽しみ方を理解し、この先登場する主人公により感情移入したり、主人公の気持ちを汲み取ったりできるようになったファンも多かったことだろう。
次のブロックでも、同様に楽曲を通じて2人目の主人公SIHOのストーリーが描かれていく。真夜中に突然、電話のベルが鳴る。それは過去の自分からの電話だった。過去のSIHOは言う。「もしもし、元気?元気ならいいんだけど、あまり無理はしないでね。そっちは楽しい?」。電話が切れると、ももクロの楽曲「手紙」へ。SIHOは歌いながら机に向かって手紙を書き始める。最後に、その手紙を紙飛行機にして飛ばすと、もう一人のSIHOのもとへと届き、「ベルベットの森」へ。「私は誰かを輝かせていますか?」というメッセージを歌いながら、二人のSIHOが合わせ鏡のようにステージ上で交差しながらパフォーマンスしていくと、続いて新曲「まわるきもち」を初披露。この曲では過去のSIHOが何人も登場。共に手を取り合って、お互いを⿎舞するように歌い上げていく。楽曲を手掛けたのはMONO NO AWAREの玉置周啓。ポップな曲調に合わせたコミカルなダンスもとても印象的だった。
続いて、3人目の主人公ロックスターのHIROMIはエレキギターを抱えてバンドメンバーの真ん中に登場。このブロックは、昨年のソロコンサートのオープニングでも披露された「HAPPY-END」でスタートした。ここで、武道館の空気が一変。ミュージカル的要素が強かった前半ブロックから、一気にロックバンドのライブの雰囲気へとシフトし、客席からは盛大なコールも沸き起こった。すると、「最後に新曲を聴いてください」というMC(あくまでHIROMIのストーリー上のMC)から、新曲「君に100個⾔いたいことがあんだ」を初披露。ビジョンに歌詞が映し出される中、スタンドマイクに向かい、4人のアンサンブルと共に「アイラビュー」「アイニーヂュー」を表現したキャッチ―な振り付けで会場を盛り上げていく。配信されたばかりにも関わらず、コールを覚えて臨んでいたファンも多く、初披露ながら今後のライブ鉄板曲になることを予感させるような盛り上がりをみせていたのがとても印象的だった。忘れらんねえよの柴田隆浩が手掛けたこの曲も「まわるきもち」同様に、意外なミュージシャンからの楽曲提供ということでファンを驚かせたが、どちらの曲も玉井のまた新たな一面、新たな魅力を引き出すことに成功したと言っていいだろう。
大歓声を浴びて新曲が終わると、ステージを降りたHIROMIとマネージャーの楽屋での会話が繰り広げられていく。ライブ後にもぎっしり詰まった仕事のスケジュールを伝えるマネージャー。それよりも今日のライブの出来を気にするHIROMI。マネージャーが部屋を出て行くと、思わずHIROMIの弱音が飛び出す。「なんだか疲れちゃった ずっと戦ってきたから キズついてキヅいた今更…」。まるでロックスターの光と影を表現したかのように、ももクロのナンバー「追憶のファンファーレ」の歌い出しの歌詞をセリフとして語ると、そのまま楽曲の歌唱へと続いていく。ドラマチックな曲の展開に、4人のアンサンブルによるコーラスも加わり、ももクロのライブの時とはまた違った曲の魅力を見せる。「何度だって輝いてみせるさ」という歌詞に乗せて力強くHIROMIの意思を表現していたのが印象的だった。