垣根を取っていかないと、日本人特有のムラ社会に陥る
——日本では自然な演技が評価されることも多いですが、アメリカはそうではない?
加藤 よくアメリカでは「ナチュラルとリアルは違うよ」と言われるんですが、もちろんリアルにしなきゃいけないけど、ナチュラルは褒め言葉ではなくて、何もしてないことと同義。ただ存在しているのではなく、リアルになるためにはできるだけ構築して、それが本当にあるかのように見せることが、我々の仕事だよということを言われました。
――どれぐらいアメリカに滞在されたのですか。
加藤 日本の仕事をやりながら、日本とアメリカを行ったり来たりしていたのですが、トータルすると10年ぐらいですかね。2001年に9.11があったので状況も大きく変わりましたし、作品で言うと、北野武さんの映画『BROTHER』(00)に出演したのを機に日本でやろうかなと思ったんです。アメリカの良いところもあれば、日本の良いところもある、それを両方活かせればいいなと思って帰国しました。
――どういう経緯で『BROTHER』のオファーがあったのですか。
加藤 違う映画で日本にいたときに武さんとお会いして、僕がアメリカにいるのも知ってくださっていたので、「英語はどうなの?」みたいな話をして、オファーをいただきました。僕はロスに住んでいたから、等身大で『BROTHER』で演じられたところもあります。
――まさに武さんの映画もセリフに頼らないですよね。
加藤 セリフもそうですし、何かすること、演技することを嫌います。余計なことをしないで、そのままでいることが重要なんです。たとえ俳優が何かしたとしても、その場で武さんは何も言わないし、怒りもしないけど、完成した映画を見るとスパッと切られているんですよね(笑)。
――帰国して、日本の映画界はどのように映りましたか。
加藤 僕がデビューした頃は、日本人俳優がアメリカの俳優に勝てる訳がないという風潮があったし、それはマスコミの人たちの中にもあった。そんなことはないだろうと僕が思っていたことが、大きく変化しているのを感じました。その頃には日本人の監督や俳優が世界で活躍するようになっていて、やっぱりそうじゃんと。清水監督にしても、いずれは世界で映画を撮るんじゃないですか。
――海外の映画賞で日本の監督が賞を獲るのも珍しいことじゃなくなりましたからね。
加藤 そうですね。あと僕が思うのは、『JOINT』(20)の小島央大監督や『ケンとカズ』(16)の小路紘史を始め、インディーズで撮っている才能ある監督がいる。その人たちがメジャーに行かないでやっている現状もどうかなと思うんです。監督自身が目的意識を持ってやっているかもしれませんが。それに素晴らしい若手監督はたくさんいるのに、メジャーに引っ張る人が少ない。それは扱いが難しいからだと思うんですよね。俳優にしても、海外で評価されているのに、日本のメジャーな作品には出てない人も多い。それはオファーをかけないのか、本人が出ないのかは分からない。ただ分け隔てなく、垣根を取っていかないと、日本人特有のムラ社会に陥ると思うんです。僕がモデルをやっていたときもそうだったけど、ファッションの世界の人と、広告の世界の人では、お互いに違う世界だよねと言い合っていた。それってナンセンスだし、一緒になればいいじゃんと当時から思っていました。メジャーとインディーズの垣根をなくしたら、もっと日本の映画界も活性化するのではないでしょうか。
――貴重なお話をありがとうございます。最後に『僕の中に咲く花火』の注目ポイントをお聞かせください。
加藤 僕的に言うと、「お父さん」を一生懸命頑張ってやっているところを見てほしいです。全体としては、現状に行き詰まって悩んだり、自殺を考えたりという若者が多い中で、前向きに生きるためのヒントになるようなものを見つけてもらえればうれしいですね。
Information
『僕の中に咲く花火』
ユーロスペースほか全国順次公開中
安部伊織 葵うたの 角心菜 渡辺哲 / 加藤雅也
水野千春 佐藤菜奈子 平川貴彬 米本学仁 桜木梨奈 田中遥琉 古澤花捺 國元なつき
監督・脚本:清水友翔
田園風景の豊かな岐阜県にある田舎町。小学校の頃に母親を亡くしている大倉稔は、家にほとんど帰ってこない父親と不登校で引きこもっている妹に頭を悩ませていた。10年前に亡くなった母を未だ忘れられない稔は、死者と交流ができる、と話題の霊媒師を訪ねる。そこで「ドラッグ」が臨死体験に似た働きをすることを知った稔は、死後の世界への好奇心から非行の道を走り始める。そんな折、東京から帰省してきたという年上の女性、朱里と出会う。どこか母親のような優しさを併せ持つ朱里は、稔の心の寂しさを埋めてくれる存在になっていく。しかし、稔の前で起こった不幸な事件が稔の心がこれ以上ないほどに引き裂かれてしまう。死への好奇心が恐怖に変わってしまったことで、彼の胸の内に潜んでいた狂気が姿を現し始めるのだった……。
加藤雅也
1963年生まれ、奈良県出身。モデル活動を経て、1988年『マリリンに逢いたい』(すずきじゅんいち監督)で俳優デビュー。ドラマ「アンフェア」(CX)やNHK連続テレビ小説「まんぷく」など、様々な役柄を演じて話題に。現在は、俳優以外にもFm yokohama「加藤雅也の BANG BANG BANG!」のラジオDJをつとめ、写真家としても各地で写真展を開催するなど、多方面で活動の場を広げている。Instagram(@masaya_kato1192_official)では加藤雅也ならではの視点で撮影された写真を多数掲載。モデルとしては、Yohji Yamamotoコレクションに出演し、カタログにも起用された。2025年の映画出演作品は、『REQUIEM~ある作曲家の物語~』(菅野祐悟監督)、『長崎―閃光の影で―』(松本准平監督)、『僕の中に咲く花火』(清水友翔監督)、『男神』(井上雅貴監督)、『By6am 夜が明ける前に』(向井宗敏監督)、『爆弾』(永井聡監督)、『栄光のバックホーム」(秋山純監督)がある。芸能生活で得た「学びと気づき」を綴ったエッセイ集「僕の流儀 What’s Next?」が発売中。
PHOTOGRAPHER:HIROKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI