アドリブで生まれたものが採用されたシーンが多かった

――主演のプレッシャーはありましたか。

⽇穏 何も分からない状態でやっていたので、とりあえずやるしかないと思って、あまりプレッシャーを感じることなく、自分のことに集中してやれていました。

――スカッシュ部のシーンは、部員たちとの距離感が絶妙でした。

⽇穏 共演者の皆さんと初めてお会いした時から、仲良くしようという雰囲気があって。楽しくコミュニケーションを取りながら、和気あいあいと撮影できました。

――代々木ジョニーを取り巻く人たちの大半が女性ですが、その辺のコミュニケーションはいかがでしたか。

⽇穏 最初は「同世代の男子は俺だけなんだ!」と戸惑いましたが、皆さん友達のように接してくださいましたし、実際に仲良くなって、現場でコミュニケーションを重ねることができました。女子生徒の多くは「ミスマガジン2023」で賞を獲った方々が集まって演じられていたので、すでに関係性が出来上がっていたんですよね。だから僕も一人と仲良くなったら、自然とみんなとの距離感も縮まりました。

――高橋さん演じる「神父さん」もとぼけた味を出していて面白かったです。

⽇穏 高橋さんは一見するとクールな印象なんですが、クールさもありつつ、仲良くなったら深い話もしてくださって、演技について「どうすればいいですかね」と僕が聞いた時も、先輩として親身になって相談に乗ってくださりました。俳優としてはもちろん、人としても好きになりました。

――代々木ジョニーと神父さんの奇妙なやり取りも最高でした。

⽇穏 本当ですか?ありがとうございます。高橋さんのとぼけた演技を見て、面白いなと思って真似したところもあります。

――スカッシュ部の部室で、神父さんと麻雀牌で遊ぶシーンはアドリブですか。

⽇穏 アドリブです。そこにあったから、遊んでみようかなと思って遊んでいたら、「それでやっていこう」という話になって。木村監督も「それいいじゃん!」と採用されました。

――現場で生まれるものが採用されることは他にもあったんですか。

⽇穏 けっこう多かったです。たとえば代々木ジョニーがカバンを持って歩く時に、背筋をピンとして真っすぐ前を見ているのは特に指示がなくて、木村監督から「ジョニーっぽく歩いて」と言われただけでした。自分のイメージでやったらOKをいただけました。

――確かにジョニーっぽい歩き方ですよね(笑)。随所に洗練されたカット割りが出てきますが、撮影中に映像面でのこだわりは感じましたか。

⽇穏 カメラマンさんチームと木村監督が綿密に話し合いをしている印象はあります。木村監督は「ここはワンカットでいきたい」とか「こっちからのパンでこうやって」とか、カメラの動きを細かく指示していて、出来上がるのが楽しみだなと思いながら演じていました。

――大変だったシーンは?

⽇穏 撮影時期が真夏で、廃校で撮影していたんですけど、電気も通っていないからエアコンがなくて。めちゃくちゃ暑い中、それこそ麻雀牌で遊ぶ部室のシーンを長回しで撮影したのは印象に残っています。

――猛暑の中の撮影には見えませんでした。

⽇穏 春のシーンだったので、汗をかいちゃいけないとみんな我慢していました(笑)。しかも部室でのシーンは20カット以上あって、スタッフさんも含めて大変でした。

――キャリアのある俳優さんとも共演されていますが特に印象に残っている方はいらっしゃいますか。

⽇穏 マキタスポーツさんです     。緊張して、あまり自分から話しかけることはできなかったんですが、長年経験を積まれている方は、尺の短いシーンの演技でも、しっかりと存在感を見せられるんだなと感じて勉強になりました。

――完成した作品を観た印象はいかがでしたか。

⽇穏 演技をしている時の自分の目線と、カメラで撮られている景色は全然違うなと思いました。初めての映画だったので反省点はたくさんあったんですが、木村監督の味を残しつつ、今までにないスポコン要素が入っていて、とても面白かったです。恋愛や友情など、人間関係の少しのずれから生まれる齟齬みたいなものが見えて、切なさもありました。