石川県の方言に感情を乗せるのが難しい

――お二人は関西出身ですが、都会に疲れて田舎に帰りたいと願うぎんに共感する部分はありましたか。

横山 オーディションを受けて夢を追いかけている時代は、田舎に帰ったら負けじゃないかという気持ちがどこかにありました。でも、ぎんの場合は舞台版だと特に、田舎に帰ることが新たな一歩を踏み出す希望として描かれているんですよね。ぎんの置かれている状況を考えて、自分の夢を追いかけるのが不可能になって、一緒に帰って松永の夢を応援したいという価値観は納得できました。

岡田 私は2歳で東京に出てきたので、横山さんの仰ったような、田舎に帰ることが負けみたいな感覚はないんです。それもあって私もぎんの「田舎に帰ろう」という気持ちの解釈としては、確かに田舎に帰ることは過去に戻ることなんだけど、それが負い目でもなくて、そこからまた先に進めるんだと。ぎんは「まだまだ私たちは大丈夫だから」と自分にも言い聞かせて、松永を説得する。それは横山さんの言う通り、田舎に帰ることが一歩前に進むということになるんですよね。それとは対照的に、ダンサーの奈々江(阪口珠美)にとっては肺病に侵されている松永から離れるのが未来への一歩。その対比も面白いですよね。

――ぎんは石川県出身ですが、方言はいかがですか。

横山 大変ですよね。

岡田 横山さんは耳がすごくいいので、本読みの時点で方言が入っていて、それを聞いて、自分が間違えていることに気づきました。方言に関しても、横山さんを見て勉強させてもらっています。

横山 事前に方言の先生がセリフを録音した音源を送ってくださって、それを聞いて覚えたのですが、ニュートラルな状態の方言を吹き込んでいるので、そこに感情を乗せるのが難しくて、これで合っているのかなと心配になったりもします。

――二人でぎんの演じ方について、相談し合うこともあるんですか。

岡田 舞台初出演というのもあって、私から質問することばかりです。稽古に参加できなかった翌日も、ぎんの感情に追いつけなくて、どう立ち回っていいか分からずに悩んでいたら、「こういう解釈でやればいいんじゃない」とアドバイスをくださって、一方的に教えていただいています。

横山 私と岡田さんでは稽古のスタイルが違うのかなと思っていて、岡田さんは事前に考えてきたものをしっかりと深作さんに確認している印象が強いんです。逆に私は深作さんに言われたことを持ち帰って、考えたものを翌日の稽古でやってみて、それに対してどういう反応があるのか待つんです。同じ役でもアプローチが違うところが楽しいですね。私は岡田さんが深作さんからいただいたヒントを、あえて聞かないようにしているんです。もちろん共有してほしいところは二人に言うと思うので、それぞれの作り方があっていいんだろうなという解釈です。

――ぎんは足が悪いという設定ですが、繊細な表現が求められるかと思います。

岡田 難しいですね。立ち稽古が始まった初日に、大げさにやっていたら、「本当に足が悪い人は、そんなにわざとらしく足を引きずらないよ」というアドバイスをいただきました。じゃあ普通に歩くタイミングを作ろうと意識したんですが、徐々に慣れてきたら、「ここは大げさにやってほしい」というシーンもあって戸惑いました。

横山 そこは舞台ならではの表現ですよね。こういう風に見せたいというところが演出家的にあって、舞台を通して同じ表現をすると、シーンによっては目立たなくなります。映像のお芝居だとカメラに映るのは一部なので、それで問題ないのですが、舞台は全身での表現なので、そこの塩梅は難しいですよね。

――前半でダンスシーンもあるそうですね。

横山 ちょっとだけですが踊ります。バレエの要素もありつつ、ステッキ代わりに杖を使うんです。

岡田 私はダンス経験もないので、そこも「横山さ~ん」って感じで頼りっぱなしです。舞台の端から端まで移動する程度の距離なんですが、それでもしっちゃかめっちゃかに踊っちゃうんです。横山さんの動きはしなやかで、ステップから教えていただいています。

横山 岡田さんはそう言いますけど、私からしたら、舞台が初めてというのが信じられないです。自分に置き換えて、今回の作品が初舞台だと考えたら、何もできないと思います。今まで積み重ねてこられた人生とキャリアがあるからこそ、初めてとは思えないです。ダンス面など私が教えられるところもありますが、現場での立ち居振る舞いも含めて岡田さんから刺激をいただいています。

岡田 うれしい!この言葉を思い出して、布団の中で泣きます。いつも稽古では横に優しくてきれいな横山さんがいるから、ついつい「みなさん、ここにあるお菓子は食べないんですかね」なんて、どうでもいいことまで聞いて。でも、ちゃんと答えてくれるから心強いですし、それに救われている自分がいるんです。しかも、私が質問して教えてくれるだけじゃなくて、私が稽古に参加できなかった翌日は「昨日はこうだったよ」と教えてくださるんです。なんて優しいんだろうと思いながら、必死にメモしています。常に横山さんの後ろ姿を見させてもらっています。

横山 ヤバいな……。

岡田 ヤバくないですよ!

――横山さんとしてはグループ時代を思い出すんじゃないですか。

横山 思い出しますね。ちゃんとしないと(笑)。