自分が今書きたいものを真っすぐに書いたアルバム

――2ndアルバム『LANDERBLUE』は、2枚同時発売となった1stアルバム『PRESENCE』と『ABSENCE』から2年半ぶりのリリースとなります。

楠木ともり(以下、楠木) リリースのタイミングはレーベルと話し合いながら決めているので、気づいたら間隔が空いていました。1stアルバムが出るまではEPという形で4曲ずつ出していたので、曲が溜まるスピードが早かったんですけど、それ以降はEPの形にこだわらず制作していたこともあって、なかなかアルバムを出すタイミングがなかったんです。今年はアーティストデビュー5周年というタイミングでもありますし、既存曲と新曲のバランスを考えて、今のタイミングでのリリースになりました。

――前作はポップでキャッチーな曲の多い印象でしたが、今作は内省的な印象を持ちました。

楠木 以前から、すごくポップな曲を書こうという気持ちはそこまでなくて、どちらかというと自分の音楽的趣味を優先していたんですが、メジャーシーンでやるにあたって、広く聴いてもらえるような曲のアプローチも意識していたところがあります。ただ、『吐露』(2024年11月6日リリース)という5th EPが非常に内省的な楽曲で、歌詞も誰かに共感を求めるというよりは、自分が今書きたいものを真っすぐに書きました。そのEPを聴いてくださる方からのリアクションが、自分が思っていた以上のもので、こういった楽曲のアプローチもいいんだなと気づいたことが大きかったです。今回のアルバムも広く共感していただくというよりは、「こんな人に聴いてほしい」「一人しかいないかもしれない人に向けよう」とか、ターゲットを絞った楽曲を書いたことで、よりストレートな表現だったり、生々しさだったり。そういうところがアルバムの雰囲気につながっているのかもしれません。

――聴く人のターゲットを絞るのは勇気のいることですよね。

楠木 決して声優アーティストは広く聴いていただけるジャンルではないですし、近年だとアニメのタイアップもメジャーアーティストの方々が担当することも多くて、声優がアーティストをやる意味合いが難しい状況です。そんな中で、私は音楽的趣味が偏っているという自覚もあり、放っておくと暗い曲ばかり書いてしまいます。いろいろなバランスを考えていく中で、周囲から「明るい曲書いてみたら」とか「もっと広く聴いてもらう曲を作ったら」と言っていただくことも多くて、そうしていかないといけないのかなという認識もありました。

でも『吐露』という、ある意味で自分本位なEPを出してみて、広く受け取ってもらえたことが自信になりました。新たな道として、こういう路線もありなんだという認識ができて、そこが自分の得意分野だし良さなのかもしれないなと思えて、『LANDERBLUE』の制作が始まりました。今のチームが私のやりたい音楽性を尊重してくださっているのも大きいです。

――過去には、いわゆる「声優っぽい曲」をファンから求められることもあったのでしょうか。

楠木 メジャーデビューする以前の10代の頃は、インディーズレーベルから盤をリリースしたり、ライブをしたりという活動をしていました。その当時は、サイリウムを持って踊れる曲や可愛らしい曲をやるイメージを持ってライブに来てくださった方も多かったと思います。そういうノリを求めてきたら、全然知らない曲のカバーばかりするし、暗いし、盛り上がる雰囲気じゃないというので、ネガティブな意見を多くいただいていました。ただ、求められているような表現に興味がなかったので、自分を貫いていったことで、徐々にそういう人だと理解した上で興味を持ってくださる方が増えて。メジャーデビューしてからの5年間は、楠木ともりとしての音楽を模索していたし、それをお客さんが私に教えてくれるような感覚もあって、アーティスト活動を続けてきて良かったなと思います。

――声優としての楠木さんを先に知ってファンになった方は、音楽を聴くと驚くでしょうね。

楠木 最初は驚かれますし、特に『吐露』を出したタイミングで知った方は衝撃も大きかったと思います。ただ、そこにファンがいてくださる、聴いてくださる方がいるというのが強みになっていて。もしかしたら自分の好みじゃなかったという方もいるかもしれないけど、その音楽性が支持されているという現実があるから、否定的な声は私に届きません。聴きたい人が聴いてくださっているんだなという、やりやすい環境で活動させていただいています。

――『LANDERBLUE』のコンセプトについて教えてください。

楠木 前回のアルバムは「存在」というテーマだったので、概念的で具体的なモチーフやイメージカラーもなくて、アプローチが難しいと感じていました。だから今回は、もうちょっと「もの」として分かりやすいものから、イメージを広げていこうと考えました。それにアーティストデビュー5周年というタイミングで出すアルバムなので、アーティストとして活動してきた5年間だけを切り取るのではなく、25年間の人生でアーティストとして過ごした5年をアルバムにしたかったんです。そこで思いついたのが自分の誕生石をモチーフにすることでした。

――楠木さんは12月22日生まれですが、12月の誕生石はターコイズです。

楠木 ターコイズなどの宝石は自分を着飾って自信を持たせるものであったり、お守りであったり、持つだけで自分の力になるようなものだと思うんです。今回のアルバムを実際手にして聴くことで、どこかお守りのように感じられるようなアルバムにしたいなというのがコンセプトでした。ランダーブルーは、ターコイズの中でも高級で、珍しい種類のものなんです。

――アルバムのジャケットで楠木さんが持っているのがランダーブルーですか?

楠木 アルバムジャケットに使われているものは美術さんに作っていただいたんですが、新たに掘り起こせるランダーブルーはないと言われていて、市場に出ているものをコレクターたちが売買しているんです。「ターコイズ」というアルバム名も考えたんですが、それだとパッと頭に浮かぶものが一緒になるけど、ランダーブルーだと「何のことかな?」と調べてくださるなど引っかかりが生まれるかなと思ったんです。また「LANDER」という言葉には、着陸船という意味合いもあるんですが、メイン曲の「turquoise blue」には探し求めるというテーマがあって、そういったニュアンスも生じるので、ターコイズよりも意味合いに奥行きが出るかなとLANDERBLUEと名付けました。

――今回は曲調もそうですが、歌い方も変化して、バリエーションが豊かになっていますよね。

楠木 ありがとうございます。意識的に広げようとまでは思っていなかったんですが、自分がいろんなジャンルの音楽を聴くのが好きで、こういうジャンルの音楽をやるんだったら、こういう歌い方をしたいなと自然と湧いてきたものをレコーディングしていきました。

――たとえば2曲目の「浮遊」は、AAAMYYYさんの提供曲というのもあって、これまでにない歌唱法ですよね。

楠木 今までもウィスパーで歌うことはやってきていて、自分の強みだと思っているんですが、AAAMYYYさんは音程の動かし方が独特で、スーッと音を真っすぐ当てるのではなくて、ちょっと揺らぎがあるんです。そこが一瞬の不協和音を生んでいて、ゾクッとする雰囲気になるというところが楽曲に合いそうだなと思ったので、じっくりと分析して自分の歌い方に活かしてみました。仮歌もAAAMYYYさんだったので、ここのニュアンスを残しておいたほうがいいなと思ったものは、なるべく踏襲して、ここは自分らしさを出してみたいなというところは出して、と自分なりの歌い方を選んでいきました。

――収録曲の大半は楠木さん自身が曲を作られていますが、なぜ「浮遊」はAAAMYYYさんに作詞と作曲をオーダーしたのでしょうか。

楠木 アルバムを作る過程で、自分の世界観だけではなく、誰かからご提供いただいた曲も欲しいなと思った時に、アルバムのイメージとしてAAAMYYYさんの作る曲がぴったりだったんです。私はAAAMYYYさんの世界観が大好きで、歌詞を読んでいても独特な視点の方だなと感じていたので、そこに自分の歌詞が入るとノイズになるなと。だったら100%その世界観を提供していただいたほうがいいんじゃないかなというところで完全にお任せしました。