2025年は気づきの多い一年だった
――7曲目の「Nemesia」は高揚感のあるバンドサウンドです。
楠木 私は仕事柄、言葉で自分の気持ちを伝えたり、表現したりすることが多くて、それを褒めていただくことが多いんです。だからこそ苦手としている方も多いものだと思っていて、言葉は難しいなと常に感じているんです。「言葉」という名前が付けられているから、言葉そのものを想像するんですけど、誰が発したか、どんな気持ちが乗っていたかも込みで言葉の持つ力だと考えていて。言葉を紡ぐのが苦手で、自分の気持ちを表現できなかったり、押し殺しちゃったりという方はいっぱいいると思うんです。私もそういう経験があって、意図せずに誰かを傷付けていたこともあります。ただ、それを否定するのは、自己否定みたいなものだなと感じて。だから、自分の紡ぐ言葉に自信がない人に向けて、「あなたが紡ぐ言葉だからこそ、それだけで価値があるんだよ」ということに気づいてほしいし、純粋に背中を押したいと思って書いた曲です。

――ご自身は歌詞などに綴る言葉と、発する言葉の齟齬を感じることはありますか。
楠木 私自身は、この仕事を始めてから、こういうインタビューなどでも、なるべくそのまま書けたらいいなという気持ちで、整理してしゃべれるようになりました。でも、日常会話だと、「今の言葉選びよりも、こっちのほうが良かったな」「あの時、こう返せたらよかったのにな」と後悔することは、どうしてもあるので、言葉の不自由さ、扱いの難しさは常々感じていますし、それは年を重ねるごとに強くなります。10代の頃は気にも留めていなかったことが、人を傷つけるかもしれないから良くないのかなと立ち止まることが増えているんですよね。
――歌詞はどういうふうに書くことが多いんですか。
楠木 勢いでサッと書いちゃうことが多いですね。もちろん悩むこともありますが、どちらかというと感覚的に書いていて。文章を書くというよりは、今頭にあることを言葉に置き換えている感覚に近いです。ふわっとした表現のこともあるし、ストレートなこともありますけど、いわゆる作文とは違いますね。
――歌詞と曲、どちらを先に書くことが多いですか。
楠木 私はオール詞先です。
――それは珍しいですね。
楠木 よく言われます。でもメロが先にあると、文字数が縛られるじゃないですか。そうすると言いたいことを言い切れない感じがしちゃって。曲先だと書けないですね。
――歌詞の時点でメロができているわけではなく?
楠木 頭の中でメロが鳴っていることはあるんですが、それをそのまま採用することは少ないです。
――メロに乗りにくくて、詞を変えていくこともあるんですか。
楠木 たまに文字数や音程を調整することはありますが、一回書いた歌詞は、基本的に変えません。
――10曲目の「それでも」は情感のこもった歌唱に訴求力を感じました。
楠木 今回のアルバムで唯一、自分のためだけに書いた曲で、リリースしなくてもいいかなとも思っていました。お名前は出せないんですが、音楽的に影響を受けたリスペクトするアーティストさんがいて、亡くなってしまったんです。楽曲の依頼をしたくて、お手紙を書こうとしたこともありましたし、いつかお会いしたいと思っていました。ただ自分の中でハードルを上げ過ぎてしまって、ずっと先延ばしにしていた中で会えなくなってしまって。その方から、歌を通していろんなものを受け取っていたから、自分の気持ちを歌として残したいと思って書き始めた曲です。ぐるぐるした自分の気持ちを書いていたので、なかなか完成しなくて、ちょうど今回のアルバムのタイミングで本腰を入れて書いて、結果的に収録することになりました。

――そのアーティストの方の世界観に寄り添った部分も多いんですか。
楠木 そうですね。編曲の江口亮さんが、その方をご担当されていたんです。江口さんとコンテンツでご一緒したことがあり、その後、前回のアルバムの表題曲「presence」でお携わっていただき、今回が3度目なんですが、そのアーティストさんが大好きで、影響を受けたというお話もしていて。江口さんがオマージュしたパートを入れてくださって、私自身も、その方の歌い方を少し意識しました。
――なぜ最後から2曲目に配置したのでしょうか。
楠木 この曲が異質で、誰かのために書いた曲ではないですけど、フラットに聴いてほしい気持ちもあって。私の中で思い浮かんでいる人は一人だけど、こういう経験が誰しもあると思うんです。皆さんの中で浮かぶ人がいて、それを落ち着いた気持ちで聞いてほしいと思った時に、しっくりくる場所が最後から2曲目だったんです。
――この曲の一人称は「僕」ですが、アルバム収録曲の中でも、それぞれ一人称が違いますよね。
楠木 一人称にこだわっているわけではなくて、その曲に使いたい口調で決めています。比較的に「僕」が多いんですが、そういう時は私が女性なので、私自身から切り離して聴いてほしい時。たとえば「優等生」だと、“ほらわかるでしょ?”というフレーズのように、女性的な印象が強かったので「私」にしました。
――「優等生」は最後に、「私」から「あたし」に変わります。
楠木 演じている優等生の時は「私」で、演じていることを自覚し始めたことで「あたし」にしました。そういう言葉遊びも好きなので、一人称は幅広くこだわらずに使っています。
――ラストを飾るのは「turquoise blue」です。
楠木 最後の曲ではあるんですが、アルバムのテーマ曲は「turquoise blue」に設定しています。この曲だけはターゲットを絞り過ぎず、広く聴いてほしかったので、すーっと体に入ってくるような楽曲にしたいなと思いました。ここ最近、私の考えていることがぎゅっと詰まった歌詞で、私は抗いたいというか、目の前の壁にぶつかっていく主義だったんですけど、世の中には自分ではどうにもできないことが必ずあって。それに立ち向かうのもいいけど、無理なものは無理と受け止めて、そこからどうしていくかを考えるのが、大事だなと感じるようになったんです。“身をまかせて どこまでも”という言葉も使っていますが、穏やかな意志というか。強過ぎず、落ち着いて、清らかな気持ちで自分を大切にするとか、自分の目指すものを掴むみたいなニュアンスの曲にしたいなと思っていて。音数も減らしていただいて、オーガニックな楽曲になっています。
――キャリアを重ねたからこその歌詞ですね。
楠木 ちょっと前だったら書けなかった歌詞だなと思います。冒頭の“自由は不自由”という表現も、自由はみんな求めているし、得たいものだと思うんですけど、本当に自由だと自分の世界だけで終わるという気がしていて。多少の制約があるからこそ、そこで自由を求めていけて、広がりがあったり、壁がなくなったりする瞬間もあると思っていて。みんなが自由を求めているから、自由はいいものだと捉えるのではなくて、自由に対して自分はどう思うんだろうみたいなところを大事にした曲です。
――12月22日にはEX THEATER ROPPONGIでバースデーライブを開催しますが、今回のアルバム収録曲はどのようにパフォーマンスするのか想像がつかない曲が多いです。
楠木 そうなんですよね(笑)。ライブでどうしようかなと思う曲が多いんですけど、いつもの信頼の置けるバンドメンバーとできるので、リハで話し合いながら考えていきたいです。あと今回初めてスタンディングでのワンマンライブをやらせていただくんです。常々ライブって一方的に見えて、双方向的なものだと思っていて、私から届けるものもあるし、逆に届けてもらうものもあるし。ライブが終わった後、お互いに感じるものがあると思っているので、そういったものがより際立つような、自分で自分の煌びやかな部分に気づけるようなライブになったらいいなと思っています。会場のEX THEATER ROPPONGIは、インディーズの時に「メジャーデビューをします」という発表をした箱なので、私にとっては記念すべき場所です。その時は座席ありだったので、スタンディングでどういう景色になるのか楽しみです。
――最後に気は早いですが、2025年はどんな一年でしたか。
楠木 気づきの多い年だったと思います。今回のアルバムでも伝わると思うんですが、もともといろんなことを深く考えがちな人間ではあるんですが、ずっと悩んでいるばかりじゃなくて、考えた末に結論の出ることが多かったんです。来年も声優として、アーティストとして、新たな気づきを増やしていきつつ、常に進化していけたらいいなと思っています。
Information
<RELEASE>
2nd Album『LANDERBLUE』
2025年11月26日(水) リリース
■完全生産限定盤 [CD+BD+Visual Book] 16,500円(税込)
■初回生産限定盤 [CD+BD] 4,400円(税込)
■通常盤 [CD] 3,300円(税込)
[収録内容]
■CD
※CDの収録内容は全形態共通となります。
01. twelve(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:arabesque Choche(Chouchou))
02. 浮遊(作詞・作曲・編曲:AAAMYYY)
03. シンゲツ(作詞:楠木ともり 作曲:TETSUYA 編曲:陶山 隼&TETSUYA)
04. DOLL(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:亀田誠治)
05. 優等生(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:重永亮介)
06. MAYBLUES(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:KBSNK)
07. Nemesia(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:重永亮介)
08. back to back(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:重永亮介)
09. 風前の灯火(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:重永亮介)
10. それでも(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:江口 亮)
11. turquoise blue(作詞・作曲:楠木ともり 編曲:重永亮介)
■Blu-ray
01. turquoise blue -Music Video-
02. 浮遊 -Lyric Video-
03. LANDERBLUE -Before processing Movie- ※完全生産限定盤のみ収録
03. turquoise blue -Before processing Movie- ※初回生産限定盤のみ収録
<LIVE>
TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2025 “LAPIDARIES”
日程:2025年12月22日(月)
会場:EX THEATER ROPPONGI
時間:open 18:00 / start 19:00
お問い合わせ:H.I.P. 03-3475-9999
楠木ともり
1999年12月22日生まれ。東京出身。2016年に開催されたソニー・ミュージックアーティスツ主催の声優オーディション「第5回アニストテレス」で特別賞を受賞し、2017年に声優デビュー。2018年にはTVアニメ「メルヘン・メドヘン」にて初主演を果たすと、「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」レン役、「魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~」ミーシャ・ネクロン役、「プロジェクトセカイカラフルステージ! feat.初音ミク」宵崎奏役、「ヘブンバーンズレッド」茅森月歌役など、次々と人気アニメ・ゲーム作品のメインキャストに抜擢。若干19歳にして第十三回声優アワードにて新人女優賞を受賞する。2022年には超人気作・TVアニメ「チェンソーマン」マキマ役を担当し、その実力を轟かせた。2020年、「魔王学院の不適合者」EDテーマ「ハミダシモノ」でソロアーティストとしてメジャーデビューし、2025年8月にはメジャーデビュー5周年を記念した映像商品「Tomori Kusunoki ALL VIDEO SONGS 2020-2025」をリリース。声優活動を精力的に行いながら、自身で作詞作曲し、ライブグッズのデザインも手掛けるなど、多方面で才能を開花させている。
PHOTOGRAPHER:TOMO TAMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:Sana Okubo,STYLIST:Hazuki
