空手で身についた身体性や礼儀作法が今の活動に生きている

――ここからはキャリアについてお伺いします。学生時代に打ち込んでいたことはありますか。

伊波 中学1年から3年まで空手をやっていました。誘われて道場に入ったんですけど、なんだかんだ好きでした。松濤館という型がメインの空手をやっていまして、でも試合は組み手での選出がほとんどでした。きっと型は向いていなかったんだと思います。今でこそ、ダンスや殺陣の経験をたくさん重ねたので、型が上手くなっていると思うんですが、当時は物事を覚えるのが得意ではなく、進級試験にも手こずっていました。何事もスロースターターで、結果が実らないことも多い学生時代でした。なので、このお仕事を長くこなせていることに自分でも不思議に思うことがあります。

――空手の経験が今の活動に活きている面はありますか。

伊波 たくさんあります。空手で身につけた軸の強さや足腰は今のお仕事にもすごく生きていて、ダンスをやっていく中でも、アクロバティックなことに挑戦する機会でも、しっかりやりきれたのは空手があったからこそだと感じています。足技が得意で、殺陣で蹴りをする時も綺麗に決まる方かなぁと。ヒールやロングドレスを着て殺陣をした時も、空手の軸があって良かったと思いました。それに、武道は精神道でもあるので、礼儀作法だったり挨拶だったりというところも、すごく生きていると思います。しっかりと相手に届くように挨拶するって当たり前のことなんですけど、それが自分の強みにもなっているなと感じる現場は多いですね。

――声優の専門学校に進まれたんですよね。

伊波 そうなんです。中学を卒業してから声優の専門学校に入りました。ただ、その学校ではダンスの授業が年間で8コマもあったんですよ。当時は歌ったり踊ったりというのが波に乗っていた時代で、その後、私もそういう作品に出会って10年以上ダンスを続けてきましたけど、大怪我することもなく、どんどん鍛えられていったのは、そのベースがあったからだと思います。あと、その専門学校も挨拶に厳しかったんですよ。

――それは意外です。

伊波 上下関係もしっかりと学びました。教室から先輩が出てきたら、入れ替わりのタイミングで目を見て笑顔で「おはようございます!」って言うとか。当時の講師陣は舞台をベースにやられていた方が多かったので、そういったところを大切にされていたんだと思います。その時に感銘を受けた言葉や、講師の方々が出演している舞台を観た時の衝撃が、今も私が舞台を好きでい続ける理由にもなっています。他にもペアで組んでラジオパーソナリティーをやる授業があったんですが、長くレギュラーでラジオを持たせてもらっている今を考えると全部身になっているんです。自分の選択は間違っていなかったと思いますね。

――声優を目指したのはどんなきっかけだったんですか。

伊波 黒木瞳さんのドラマのお芝居に感銘を受けたのがきっかけで、その時に俳優という仕事を意識したんですよね。そういうところをたどっていく中で、舞台というものがあったんですけど、でも私はきっと無理だろう、その夢に届くわけがないと思っていて。というのも私は自分の容姿に自信があるわけでもなく……。でもお芝居はやってみたい。そんな時に好きだったアニメから声優というお仕事を知り、志しました。

――なぜ声優にとどまらず、舞台にも出演することになったのでしょうか。

伊波 専門学校で卒業公演の舞台もありましたし、感情解放の授業もあって、自分の身で演じるとはどういうことかを学ばせてもらったんです。その経験の中で、演じることの楽しさを知っていったんですよね。だから専門学校を卒業する時には、声優をやるにしても、自分自身が相手から受ける影響によって心が動く、動かされるということを理解して、お芝居を学ばないとやっていけないなと感じたんです。もっと自分自身で吸収できることがあるなと思って、声優デビュー自体は『陽なたのアオシグレ』(13)という短編劇場アニメの主人公だったんですが、それより先に舞台のお仕事が決まったりとか。そう考えると、始まりは舞台でした。そこから、いろんなオーディションを受けて、『NARUTO -ナルト-』という舞台が決まって、そのあたりから漫画原作の舞台が盛り上がりをみせはじめましたよね。私もそういった作品に出演する機会が増えて、同時並行で声優としても『ラブライブ!サンシャイン!!』(15)という大きい仕事が決まって。

始まりは決して順風満帆ではなかったですが、いろんな風当たりの中、いろんな言葉に救われて戦ってきて20代は本当に大きな経験と出逢いがある役者道中でした。そして、30歳になって気付いたことは、自分にしかできないことがたくさんあるなと。こういう活動の仕方をしている人ってあんまりいないかなと。それが特色になって、「伊波杏樹って面白いね。いろんなことをやっているね」と人間性に興味をもってもらえることもあって。でも、それらを中途半端で終わらせるつもりはなくて。1個1個にちゃんと夢を掲げて向かっています。

役者としてはこうなっていきたいという夢があるし、アーティスト活動では日本武道館に立つという夢があるし、ラジオパーソナリティーとしては、番組を通して、聴いている人を安心させられる存在になっていきたい。それぞれに夢があって、声優としては、役との出逢いの中で幅広く作品に寄り添える存在になっていきたい。そこへプラスアルファ、歌やダンス、自分の体一つで表現できるステージも大切にし続けたいし。結局、舞台にも声優にも全部が還元されるので、必要ないなんて思うものは一つもなくて。さまざまに色濃くチャレンジしてきた結果が今かなと思います。