成人式はヴィンテージのセットアップとシャツで参加
――映画『18歳のおとなたち』で兵頭さんが演じた成田誠について、初めて脚本を読んだときはどんな印象を受けましたか。
兵頭功海(以下、兵頭) オーディションを受ける前に脚本を読んで、マネージャーさんと「ぴったりな役ですよね」って話をしていて。僕自身、誠のように「真っ直ぐだね」と言われることが多いですし、一度決めたことは突き通すところや、友達が大好きで、何かをするときに周りを巻き込んでいくところも似ているのかなと思いました。
――誠を演じる上で、どんなことを意識しましたか。
兵頭 実話を基にした物語というのもあって、誠が人から憎まれるようなキャラクターにはしたくないなと。誠は物事が見えなくなることもあるし、おせっかいなところもあるけど、それも周りへの愛情があるからこそで、そこを表現するのは難しいかなと思っていたんです。でも、実際に撮影に入ると、演者もスタッフさんも距離感の近い現場で。誠は距離感がバグっている人なので、自然とそういう人間になることができました。
――俳優さん同士の距離感の近さは映像からも伝わってきました。
兵頭 本当ですか?実際みんなハッピーでしたし、それぞれやりたいことがちゃんとあったんですよね。それはスタッフさんも同じで、佐藤周監督だけではなく、助監督さんが、「こういうところにこだわりたいんだよね」と意見を伝えてくれたり、スタイリストさんが「こういう帽子のほうが面白いと思うんだよね」と提案してくれたり、正しい物づくりをしている現場だなと感じました。
――佐藤周監督の演出はいかがでしたか。
兵頭 僕の演技を見て、誠っぽいと思ってくれたのか、あまり細かい指示はなくて、自然にやらせてくれた印象です。もちろん監督からも、「ここはこうして欲しい」というシーンもあって、そういうときはテイクを重ねたんですが、基本は自由でした。
――撮影期間が約1週間とタイトだったそうですが、スピーディーな撮影だからこその良さみたいなものはありましたか。
兵頭 何事にもまずは行動という誠を演じるからこそ、あまり考える時間もないまま、勢いで演じられたのは個人的に良かったです。
――特に印象的だった共演者を挙げるとするとどなたですか。
兵頭 誠の母親役を演じた中島知子さんです。何もしゃべらずとも、立っているだけで母親の匂いがするんですよね。それって、おそらくお芝居を超えたもので、何かがにじみ出ているのかなと感じました。共演するシーンは短かったんですけど、すごく印象的でしたね。
――確かに中島さんは後ろ姿だけで、哀切さが伝わってきました。特に記憶に残っているシーンを教えてください。
兵頭 二つあるんですが、一つはスイの母親を説得するシーンです。映画の中でも大切なシーンなんですが、時間が限られた中での撮影で、もうやるしかないという状況だからこそ、リアルに感情をぶつけることができました。もう一つは成人式で誠がスピーチするシーンです。このお仕事って、大勢の人の前で話す機会は舞台挨拶ぐらい。お芝居とはいえ、大勢が見ているステージに立って、自分の思っていることを、時間をかけて話すのは気持ちが良かったです。
――完成した作品を見て、どんな印象を受けましたか。
兵頭 そのときの心情、そのときの家族の関係性、人ぞれぞれの育ってきた環境などによって、意見が分かれる作品だなと。「親に感謝しなさい」という映画だったら、ただの押し付けになってしまうと思うんです。酷い親の元に育って、めちゃくちゃ怨んでいる人に対して、安易にそんなことは言えないじゃないですか。誠も結果的には親に感謝をしますが、決して美談にはしていないし、そういうことを押し付けていない映画だからこそ、いろいろな意見が出る映画だなと。あまり親と上手くいってない人が「ありがとう」って言ってみるきっかけになったり、大人って何だろうって考えるきっかけになったり、諦めていた夢を再び追いかけてみようと思えるきっかけになったり。それぞれが良い方向へ進むための後押しになる映画になったらうれしいですね。
――兵頭さん自身、成人式には参加しましたか?
兵頭 しました。高校卒業後に福岡から上京してきて、初めて帰省したのが成人式でした。この仕事を始めたばかりで、やっと地元の友達に伝えられるお仕事もあった時期で。久々に帰ったら、「〇〇見てるよ」と言ってもらえて、うれしかったと同時に、ちょっとだけ寂しさも感じました。
――なぜ寂しさを感じたんですか?
兵頭 僕自身は何も変わっていなかったんですけど、「一緒に写真撮ってよ!」みたいな感じで、特別扱いされているような感覚があったんです。成人式が終わって、飲みに行ったときには、以前と変わらない関係性に戻って、しこたまお酒を飲みましたけど(笑)。
――福岡の成人式と言えば、派手な格好をする新成人が多いイメージです。
兵頭 実際多かったです。LEDを付けている人とか、髪をレインボーに染めている人とか(笑)。
――兵頭さんはどんな格好で参加したんですか?
兵頭 仕事の関係で成人式に参加できるかギリギリまで分からなくて、帰れると決まったのが1、2週間前ぐらいだったんです。だから特注する時間もなかったんですけど、もともと僕はヴィンテージのファッションが好きで。1950年代ぐらいの状態が良いヴィンテージのセットアップを買って、中も同じ年代に作られたシャツを合わせました。