言われたことだけをやるというのが性に合わない

――映画『ペテン狂想曲』のオファーがあったときのお気持ちからお聞かせください。

三好大貴(以下、三好) 僕は元々関西を拠点に活動していて、太秦の東映京都撮影所や松竹京都撮影所が身近にあったので、映像作品と言えば、時代劇やサスペンス物のイメージが強くて、出演もさせていただきました。東京に出てきてからは、役者として出るのは舞台が中心だったので、久しぶりに映像作品のオファーをいただいて単純にうれしかったです。当時は三十代に突入したばかりで、今の自分だったらどういうことができるんだろうとワクワクした記憶があります。

――『ペテン狂想曲』は撮影期間がタイトだったそうですね。

三好 役者としても数日間の中にギュッと詰め込まなきゃいけないというのがあって。本来なら1ヶ月半ぐらいかけていい部分を、2,3日で作り上げたんです。その分、濃密な数日間を過ごさせてもらいましたし、時間がない中でトライしながら、自分の役を深掘りしていきました。

――過去に共演経験のある方はいらっしゃいましたか。

三好 お名前を知っている方は多かったんですが、がっつり共演するのは全員初めてでした。現場に入って、生のセッションで「どういう相性なんだろう」と探りながらやる感じで。ちょっとした即興劇風味があって、刺激的で面白かったです。

――舞台中心の俳優さんが多いですが、現場の雰囲気はいかがでしたか。

三好 僕だけではなく、皆さん繋がりが深い訳ではなく、初めましてが多い中の座組だったんですが、和気あいあいとしていて良い雰囲気でした。撮影中も、「こんなことをやってみよう」というのが役者から出てきた部分が大きくて。監督に提案しながら、みんなで作れた時間があって楽しかったです。温かいカンパニーでしたね。

――三好さんが演じた麻薬取締官の副島直哉はヒール寄りの役柄ですが、どんな役作りを意識しましたか。

三好 刑事役を演じたことはあったんですが、麻薬取締官は初めての経験で。ドラマや映画にはよく出てくるイメージだったんですが、いざ演じるとなって調べてみると、警察でも公務員でもない、ちょっと特殊な立ち位置にいるポジションで。副島はただ怖い人ではなく、自分の中に正義がある。副島に限らず、この映画に登場する弁護士、検事、刑事などは、それぞれの正義を持っているんですよね。そんなことを意識しながら、ただの悪役ではないという思いを込めながら演じました。

――副島は謎めいたキャラクターで、前半は予測不能な行動を起こします。

三好 事前に監督と話したんですが、とにかく異質な人に見えて欲しいと。前半は常識のある人がたくさん出て来るので、その中で一人だけ浮いているような、「この人は何なんだ?」と思わせたいと仰っていたんです。だから副島の登場シーンで言うと、勝手に人のコーヒーを飲んだり、初対面の人の首根っこを掴んだり。あれはト書きにあった訳ではなくて、現場で試しながら、「こんなのどうですかね?」「これぐらいまでやっていいですかね?」なんて監督に提案をしながらやってみました。

――過去に出演した映像作品でも、積極的に提案するほうでしたか。

三好 そうですね。20代前半の若手時代は、端役でいろんな映像作品に出させてもらいましたが、どうしても群像の中で埋もれちゃうんですよ。だから少しでも爪痕を残したい、自分から発信していかないといけないというのが根底にありました。あとは関西人だからかもしれないですね(笑)。出たがりというか、受身で言われたことだけをやるというのが性に合わないんです。だから、「僕はこう思うんですけどどうですか?」というのを提案していました。

――若手時代から提案できるのはすごいことですね。

三好 きっと尖っていただけです(笑)。今回も短い期間の中で、自分が言えることや、試せることは、とにかくやれるだけやっていこうと思いながらやっていました。

――監督も俳優さんの意見を柔軟に取り入れてくれたんですか。

三好 監督自身が「こうしてほしい」と強く言うタイプではなくて、みんなから出てくるものを見ながら、軌道修正をして、正解を作ってくれる印象でした。だから俳優側もバンバン意見を出していって、それに対して監督がこうしましょうと提案してくれるという、良いやり取りができた現場でした。

――監督の演出はいかがでしたか。

三好 楽しかったです。役者とのコミュニケーションもそうですし、スタッフさんも柔軟に動いてくださるんですよね。もともと予定していたところではないけど、「このカットは一連で撮ったほうが面白いね」と急にレールを敷き出すこともあって。役者や現場の雰囲気に合わせて、その場で絵を作っていくんです。今回は、僕も含めて舞台を生業にしているキャストが多かったので、映像作品だけども、みんなで作っているという舞台のようなライブ感が現場にあって。その場でエチュードをやるみたいな空気感の中、それが本番でカメラが回っているというのが面白かったです。