娘の言葉で歌うことに自信が持てた

――今回、ダーリング夫人役で出演する『ピーター・パン』は歴史のあるミュージカルですが、もともと須藤さんは歌うことに苦手意識があったそうですね。

須藤理彩(以下、須藤) 役の流れで歌うことはあったんですけど、本格的に歌を聴いてもらう作品に出るのは申し訳ない気持ちがありました。特にミュージカルは、ちゃんと訓練された役者さんがいらっしゃるので、自分には足を踏み入れられない領域だろうと思っていたんです。

――どういう意識の変化があって今回、『ピーター・パン』に出ようと思ったのでしょうか。

須藤 昨年出演した舞台『ようこそ、ミナト先生』で、童謡を歌うシーンがあって、観に来てくれた娘が「ママの歌声がすごく通っていて良かった」と言ってくれたんです。娘とカラオケに行くこともあるので、普段から私の歌声は聴いているんですけど、舞台で聴いた歌声が好きと言ってくれたのが、私の中で大きな発見でした。苦手だと思っていたことを褒められたのがうれしくて、ぜひそういう作品にも挑戦してみたいなと気持ちが動いたんです。

――お子さんは、よく須藤さんの作品を観られるんですか。

須藤 おそらく舞台はほとんど観ていると思います。よく私の出るドラマも観てくれて、感想を言ってくれるんですけど、けっこう辛口評価なんです(笑)。

――どのタイミングで『ピーター・パン』のお話があったんでしょうか。

須藤 今年2月4日に、「星の王子さま Le Petit Prince ~きみとぼく~」という音楽朗読劇に一日だけ出演したんです。そのときの演出家さんが、私が1998年に朝ドラのヒロインを務めた『天うらら』のときのプロデューサーの方で、育ての親みたいな存在なので安心感もありました。私にとって初めて経験する音楽のお芝居だったのですが、「理彩ちゃんだったら乗り越えてくれると思っている」と言ってくれたので、「お任せします」と。そのタイミングで『ピーター・パン』のお話があり、演出家の長谷川寧さんに「もし良かったら『星の王子さま』で実際に私の歌声を聴いたうえで、改めてご判断してください」とお伝えしました。それで最終的にOKをいただいて出演することになりました。

――長いキャリアを重ねてきて、また新たなことに挑戦するって素晴らしいことですね。

須藤 いろいろな作品に出演させていただきましたが、皆さんの中に「須藤さんだったら、こういうお芝居だよね」みたいなイメージもあると思いますし、この歳になると新しい場を提供していただく機会は少ないんですよね。だから『ピーター・パン』のお話は本当にありがたかったです。

――ミュージカルは体力も必要ですが、どんな事前準備をしていますか。

須藤 もともとヨガをやっているので、普段から体を動かしたり、インナーマッスルを鍛えたりはしているんですが、今回はお稽古に入る前に歌のレッスンや、『ピーター・パン』のキャストが参加するワークショップに参加させていただきました。ワークショップで顔合わせをして、みんなの名前を覚え合うゲームをやったりもしたので、すごく良い状態でお稽古に入ることができました。

――現場の雰囲気はいかがですか。

須藤 笑い声の絶えない現場で、めちゃめちゃチームワークも良いと思います。キャスト同士で、いろんな意見を出し合える雰囲気ですし、出演する子どもたちとのコミュニケーションも取れています。

――長谷川さんとは、どんな話し合いをされましたか?

須藤 オファーをいただいたときに、王道のピーター・パン像もありつつ、そこにどう新しいスパイスを入れていくかというお話をされていて、長谷川さんのイメージするネバーランドの絵を見せてもらったんです。その絵の色使いが美しくて、アート性を感じましたし、これまでとは違ったピーター・パンになるんだろうなと興奮しました。長谷川さんはダンスの振付もされるので、他の演出家さんとは違うアプローチをされる方で、お芝居の付け方も独特なんです。気持ちの面もそうですが、見え方にすごくこだわられていて。たとえば「こういう角度だと、こういうふうに気持ちを訴えているように見える」という指示があって、すぐに頭では理解できないんですけど、その通りに演じてみると、そこに気持ちが追いついてくるんですよね。それも新しい経験でした。年齢も近いので言いたいことも言い合えるし、現場の雰囲気を明るくしてくれる方です。

――11代目のピーター・パン役を務める山﨑玲奈さんは、どんな印象ですか。

須藤 長谷川さんは気さくな方なんですけど、厳しいところはすごく厳しい。特に主役の玲奈ちゃんには演出をされていて、それにも全くめげずに、注意されたことも次には修整し、さらに上を見せてくるんですよね。新人時代の私だったら絶対に袖で泣いているだろうなというぐらいのダメ出しをされても、ちゃんと自分の中に言われたことを取り入れつつ、余計な雑音は自然とスルーできる反射神経があって、物怖じをしないんです。歌声も素晴らしくて、もちろん努力もあると思うんですけど、持って生まれた才能を感じて、いつも聴き惚れています。