映画を通して奨学金制度の現実を知って衝撃を受けた
――映画『威風堂々~奨学金って言い方やめてもらっていいですか?~』で主人公の唯野空(ソラ)を演じていますが、オーディションで決まったそうですね。
池田朱那(以下、池田) オーディションを受ける前から、奨学金がテーマということで興味が湧きましたし、台本を読んだらお話としても面白くて。私自身、この映画を観たいと率直に思いました。事前に奨学金について調べるなど自分なりに準備をして、いざオーディションに臨んだら、会場にはたくさんの女の子たちがいて。それを目の当りにしたら余計に緊張してしまって、準備していた5割も審査員の方に思いを伝えられませんでした。
――伝えられなかったというと?
池田 お芝居を見せるのがメインで、ほとんど質疑応答がなかったんですよね。こういうことを聞かれたら、こう答えようとか、役どころに対しても、こういう気持ちになるだろうなとか考えていったんですが、それが活かされる局面もなくて……。オーディション会場から家までの約1時間、電車も使わず、反省しながら歩いて帰りました。全く手ごたえがなかったので、もう忘れてしまおうと。すっかり諦めていたので、数週間後に「合格です」と連絡があったときは何の話か一瞬分からないぐらいで、驚きとうれしい気持ちが同時にありました。
――初めて脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。
池田 一番のテーマである奨学金に対する衝撃が大きかったです。もちろん奨学金制度は知っていたんですが、私は借りたことがなかったので、どれぐらいの金額を借りて、どれぐらいの期間で返済しているのかも知りませんでした。金額や返済期間は人それぞれだと思いますが、40代になっても払い続けている方もいると知って、あまりの衝撃にめまいがしました。
――なかなか奨学金制度を利用した当事者の話を聞く機会もないですしね。
池田 私は奨学金に対して良いイメージが植え付けられていて、どんな場合でも何割かは負担してくれると思っていたので、全額返済をしなければいけないなんて考えたこともなかったんです。これから奨学金制度を利用する中高生の方々が観ても、面白く学ぶことができる作品になりそうだなと思いました。
――諦めかけた役が決まって、撮影までの準備期間にしたことはありましたか。
池田 より深く奨学金について勉強しました。実際に奨学金を借りている方の声をSNSで探して、当事者の方の取り組みや、どう向き合っていたのか、そのときの感情などを読んで、いろいろ参考にさせていただきました。
――ソラというキャラクターをどう捉えましたか。
池田 ソラはいろんな壁にぶち当たりますが、器用な子ではないし、周りに流されやすいところもある。だから大変な状況に追い込まれますが、そんなに暗くするべきじゃないなと思ったんです。
――なぜでしょうか。
池田 家族の問題も含めて重苦しいテーマではあるのですが、ただただ暗くなってしまうと中高生に敬遠されると思ったんです。奨学金について学んでもらうには、興味深い映画にしなければいけないと感じました。だからソラを演じる上で明るさを大切にして、コロコロ表情が変わるようなところも意識しました。
――最初は心許ないソラも様々な経験をして、徐々にしっかりしていきます。
池田 ソラを演じながら、私自身が社会の難しさを経験しているようなところがあって。ソラと一緒に強くなっていくような感覚がありました。私は群馬県出身なんですが、何とかなるだろうという気楽な考えで東京に来たら、社会の荒波に揉まれて、これは自分自身が強くならなければいけないと感じたんです。そのときの記憶を呼び起こしながら、ソラを演じていました。切羽詰まった状況に追い込まれると、自然と人は強くなっていくんですよね。
――役作りの段階で、なるせ監督からリクエストなどはありましたか。
池田 なるせ監督は全部任せてくださるんですよね。私が台本から感じ取ったものを大切にしてくださって、自由に演じさせていただきました。これまでも、なるせ監督は社会派の映画を作られていて、誰かに届けたいという気持ちが強い方だと思うので、その気持ちをできるだけ汲み取るようにしました。