家族に「これはあなたの物語なの?」と言われました

――ヒロインである「女」役を演じられる遥海さんは映画初出演になりますが、まだコロナの影響が大きい2021年に本作のオファーがあったとお聞きしました。

遥海 歌手としてのメジャーデビューが2020年だったんですけど、ちょうどコロナが流行し始めた年で、いろいろ大変で……。当時はライブも出演が決まってからキャンセルになることが何度もあったから、たぶんこの映画も中止になるんじゃないかな、叶うことのないものになるんだろうな、という風にずっと思っていました。だから正直、信じてはいなかったんです。

――時節柄、期待をしすぎないようにしていた?

遥海 落ち込まないように、自分の心を守ろうとしていたんだと思います。いざ台本を受け取ったときも「本当にこれって実現する?」と心の中で疑っていたんですよ。ようやく信じられたのはクランクインのときでした(笑)。

――この映画には音楽の持つ力がメッセージの一つとして込められていると思うのですが、脚本を初めて読んだときの印象は?

遥海 自分の父親に、病気の母親とともに置いていかれて、その母親のお世話もしないといけないという、自分の夢を捨てて他者のことを考えて生きなきゃいけない「女」の生い立ちには共感できるところがありました。それは私が13歳のときに日本に初めて来て、日本語も話せず、歌手になる夢は持っていたけれど、現実と向き合わないといけない大変さ。いろんな問題に直面をしていたからこそ、自分の夢を忘れるという部分にもすごく共感できて。あの頃の苦労や経験は、この映画で「女」を演じるための引き出し作りだったんだなって、台本を読んだときに思いました。だからこそこの役は一生懸命やりたいという気持ちにもなりました。

――ご自身の境遇という点でも役柄と共感できる部分があったということは、演じる上で感情移入もしやすかったんでしょうか?

遥海 そうですね。私が日本に来たばかりの頃は、悩みを人に話したところで共感してもらえないだろうし、ちゃんと理解していないのにいろいろと言われるのも嫌だなと思っていました。そういうときに私のそばにあったのが音楽で、それこそ「女」も自分の気持ちを殺しているからこそ、心の中の思いを音で紡いでいく。言葉だけだと物足りないけど、歌にすることでちゃんと伝わることがあるんだって。声は嘘をつかないというか、そういう感覚は自分と一緒だなと思いました。

――そこまで役とリンクしている部分が多いとは思いませんでした。

遥海 私の家族にも「これ、あなたの物語なの?」と「言われました(笑)。

――この役を演じる上で意識されたことはありましたか?

遥海 「女」はすごく孤独な存在なんですけど、撮影中の私も実際に孤独でした(笑)。

――それは役作りの一環として?

遥海 ほかの俳優さんはスイッチの切り替えがしっかりできるけれど、私は常に役を引きずっていないと「アクション!」とカメラが回ったときにスっと入れないんです。だから、例えば待ち時間には一人でご飯を食べに行きました。ミュージカルでは、一つずつ流れに沿って自分の感情を作っていくんですが、映画はストーリーの展開通りに撮影をしていく訳ではなかったので、日頃から「女」を意識するように心がけていました。