日本人だからこそ日本語で曲を作りたいという心情の変化があった

――昨年1月から二人体制になりましたが、どんな変化がありましたか。

misaki 決定権を持っているのが4人から二人になって動きやすさが増したよね。

吉田 たとえば路上ライブをするにしても、二人がOKだったらすぐに動けるし、フットワークが軽くなりました。

misaki 私と吉田は音楽のルーツも近いので、ニューアルバムで大爆発みたいな。好きなことで本領発揮ができました。

――アルバムタイトルが『PUNK RECORDS』と直球ですが、心機一転で再スタートを切ったことで、お二人のルーツにあるパンクに立ち返ろうみたいな気持ちがあったのでしょうか。

吉田 原点回帰というのはありました。俺がSpecialThanksに入って7年ぐらいなんですが、加入前はリスナーとして大好きで。2005年の結成当時はパンクやメロディックを得意とするバンドとしてバーン!と世に出てきたイメージが強かったんです。今でもそういうイメージを持っている人が多いと思うんですよね。そこに二人のルーツを見直そうというタイミングが一致して、パンクをテーマにしたアルバムを作りました。

misaki レコーディング中も「これはパンクかどうか」「自分たちの思うパンクとは?」みたいなことを話し合って、「これだと頭良すぎるよね」とか「綺麗すぎるから、もうちょっと荒ぶっていこう」とか、パンクというキーワードを軸にしたんです。

――短い曲が多いのも、パンクらしいなと思いました。

misaki BPMが早い曲も多いですしね。

吉田 オープニングのインスト「Dawn…」以外に、1分台が4曲、2分台が3曲ありますからね。全部で13曲だけどトータルで30分ぐらい。短い曲は、そこまで展開を考えなくていい分、あれもこれもできちゃうんです。

――どういう風に曲作りを進めているんですか。

misaki まずは私が弾き語りスタイルで、Logicなどでシンプルに録った曲を、みんなに聴いてもらいます。

――弾き語りの時点でBPMも速いんですか。

misaki 大体遅くて、これを早くするのか、そのまままで行くのかを話し合うんですが、BPMに関しては吉田が決めることが多いです。

吉田 今はメンバー二人なので、俺がアイディアを言うことも増えました。

misaki 私は自分の気持ち良いBPMで作るので、ゆっくり目にしたいんですが、吉田が「もっともっと上げていこう!」と言うので、結果的に速くなることが多いです。

――その時点で歌詞も完成しているのでしょうか。

吉田 歌詞は後から来ることが多いですね。

misaki パワーワードやサビだけ決まっているような感じです。

吉田 だから自由にBPMを決めやすいところがあって。別に速いからパンクとは思っていないですけど、ルーツにあるパンクもBPMが速い曲が多いですからね。misakiの作った曲を大事にしつつ、上げられる曲は上げたほうが爽快で気持ちいいんです。それが初期のSpecialThanksにもリンクするんですよね。ただ歌詞が同時に来る曲は、歌詞の意味や空気感を汲み取って、弾き語りっぽい雰囲気を重視することも多いです。

――BPMが速くなって、歌詞を乗せるのが大変になることはないんですか。

misaki 速さは関係なく歌詞を書くこと自体が難しいです(笑)。今までは英語の歌詞が多かったんですが、今回は日本語の歌詞が多くて。日本語のほうが曲に乗せるのに時間がかかりますね。

吉田 今回、全編英語の歌詞は「30s PUNKS」だけだからね。

――日本語の歌詞が中心になった理由はあるんですか?

misaki もともと自分の思っていることが日本語だとストレートに伝わるので恥ずかしいというのがあったんです(笑)。あとシンプルに英語の曲が好きだし、かっこよくなりやすいというのもあって。以前は日本語で作ってみても、かっこよくならなかったんですよね。初めて日本語で歌詞を書いたのは、アニメ『オオカミ少女と黒王子』のタイアップ曲「LOVE GOOD TIME」で。それはオファーのときにテーマがあったので恥ずかしくなく書けたんです。それをきっかけにテーマがあったら、抵抗感なく書けるんだというところから、ちょこちょこ日本語でも書くようになって。それに慣れていく中で自分の気持ちも日本語で乗せられるようになったんです。だから今回のアルバムで日本語を意識したというよりは、自然な流れですね。歌詞の意味が分からなくても、日本語の響きだけで涙をする外国の方もいると聞いたことがあって。日本語は特別な響きがありますし、せっかく自分は日本語が話せるし、言霊を大事にして、日本人だからこそ日本語で曲を作りたいという心情の変化もあります。

吉田 misakiの言葉の世界観には、宇宙的な要素があるんですよ。

――どういうことですか?

吉田 言いたいことが、あまりにも伝わらな過ぎる説があって(笑)。

misaki スピリチュアル過ぎて、伝わらないと言われることが多いんですよ。

吉田 今回は歌詞についての意見を聞かれることも多くて、「もうちょっと分かりやすくていいかもね」とリスナー的な視点で言うこともありました。

misaki 全曲、「この歌詞の意味分かる?」って聞いたよね。それは初めてかもしれない。今までは意見があったとしても、「misakiの世界観があるから、それを守ろう」と思ってくれていたんでしょうね。でも今回、めっちゃ歌詞が良くなったという実感があったので、これからもこのスタイルで行こうかなと考えています。

吉田 詞を書かない側の素人感覚も大事なのかもしれません(笑)。