もう当事者役はやらなくてもいいかなと思っていた
――定谷美海監督の短編映画『Colors Under the Streetlights』に出演した経緯を教えてください。
イシヅカユウ(以下、イシヅカ) 定谷監督と共通の知り合いがいて、その方を通じて連絡をいただきました。映画の内容を聞いて、トランスジェンダー女性の役ということだったので、正直もう当事者役はやらなくてもいいかなと思っていたんです。それでOKするか迷っていたんですよね。
――過去にも、そういう役を演じているからでしょうか。
イシヅカ そうです。当事者役としてアサインしていただくことが多くて、そこばかりにフォーカスされるのはどうかなという気持ちがあったんです。ただ実際に定谷監督と会ってお話しをして、今までやってきた役とは全然切り口が違うので、やってみたいなと思いました。私が演じるユリカが主人公で、一つの軸になっているかもしれないけど、そのことだけが重要ではなくて、群像的の要素が強いんですよね。
――ユリカはガールズバーのキャストたちを送り迎えするドライバーですが、普段から車は運転しますか。
イシヅカ 一応免許は持っていますけどペーパーに近くて。なかなか都内だと運転する機会もないんですよね。
――事前に練習はされたんですか?
イシヅカ 定谷監督が実際にガールズバーの送迎のバイトをされていたんです。だから助手席に乗ってもらって練習しました。
――教習所みたいですね(笑)。
イシヅカ 劇中で運転するのはボルボだからドキドキしました。私は静岡県浜松市出身で、軽自動車で育ちましたから。そのほうが山道もスイスイ走れますしね(笑)。主に運転シーンは甲州街道と荻窪で撮影したので勝手が違って大変でした。車内で会話するシーンは、ちゃんと停車して撮影しましたけどね。
――全体的にセリフに頼らない映画ですよね。
イシヅカ わりと余白を感じさせるところがありますよね。
――その辺の難しさはなかったですか。
イシヅカ 難しいとは思うんですが、もともと私はモデルからキャリアを始めていますし、本格的に俳優活動をする前に出させていただいたミュージックビデオの撮影もセリフがないことが多くて。セリフのない中でどう表現するかは得意なほうです。
――撮影日数はどれぐらいでしたか?
イシヅカ 3日間です。早朝から深夜まで撮影していたので、体力的にはしんどかったですが、それ以上に楽しかったですね。クランクアップ後も、すぐに帰らずに、みんなでお酒を飲んで話していましたから。
――短い期間でも結束力があったんですね。
イシヅカ キャストの方もスタッフの方も最高のメンバーでした。待ち時間も、ずっとしゃべっていましたからね。
――最近の映画には珍しくタバコを吸うシーンが印象的でした。
イシヅカ 普段、私はタバコを吸わないので、打ち合わせのときにニコチンが入っていないタバコで練習をして。みんなで喫煙所に行って、「持ち方はこうかな?」と話し合って。私はマレーネ・ディートリヒが好きで、彼女がタバコを吸っているシーンを思い出しながらやってみたんですが、「ちょっと違うよね」みたいな(笑)。その時間があったからこそ、お仕事の休憩中にタバコを吸うときのしぐさや空気感を、みんなで一緒に作ることができました。
――完成した作品を観た印象はいかがでしたか?
イシヅカ 撮影したのが一昨年の3月くらいで、完成試写までの間に歯の矯正をしたんです。だから表情やしゃべり方が違うなと(笑)。あと映像が美しかったです。特にメインビジュアルになっているシーンや、朝焼けのシーンは感動しました。