イメージにないと言われたほうが、火がついちゃうタイプ

――ミュージカル『マリー・キュリー』の出演オファーを受けたときのお気持ちはいかがでしたか?

松下優也(以下、松下) 前回(2023年)の日本公演を観たお客様や、業界からの評価がすごく高いということは聞いていましたし、演出を手掛けている鈴木裕美さんとまたお仕事を一緒にしたいとずっと思っていたので、お話をいただいたときはうれしかったです。

――本作ではマリーの夫であるピエール・キュリー役を演じられています。

松下 そもそもピエールって、今まで自分が演じてきた役の印象とはかけ離れている役柄。だからこそ「松下優也のピエールを見てみたい」とマネジメントにも言われまして。自分としても、イメージにないと言われたほうが、火がついちゃうタイプなんです。

――「今までのイメージと違う役」とのことですが、具体的にはどのように違うのでしょうか?

松下 僕はどの役に対しても、それまで自分の持たれているイメージを全部ひっくり返し続けてきたほうだと思うんですけど、サポート側に回る役柄は、あまり多くやってきていないので、新たな発見がありそうで面白いなと思っています。今回の「マリー・キュリー」はマリーという奥さんを支える役なので、松下優也のイメージとは全く違うとは思ってないけど、皆さんが知ってくれている自分のイメージからすると、ちょっと違うのかなと。

――ピエールは実在の人物ですが、演じるにあたって意識されることはありますか?

松下 ピエールという人物の生い立ちはもちろん、どういう人だったのか、パーソナルな部分についてはネットなどで調べました。ただ、今回はファクトとフィクションが入り混じる”ファクション・ミュージカル”。どこまでを事実に基づいてやり、どの部分をフィクションとしてやるのか、演出の裕美さんが何を求めているのか知りたいと思っています。でも、彼がずっと大事にしていたもの、その芯の部分を掴めれば、間違うことはないのかなと。他のキャストのみんなとも作品への共通認識を持って、このミュージカルならではのピエールを作れたらなと思います。

――本作の楽曲にはどういった印象を受けましたか?

松下 韓国のミュージカルって、音楽や歌の力がすごいなと思うんです。もう歌で、力技で持っていくみたいな。でも、それと同時に繊細な芝居で持っていく部分もある。自分は歌が好きで、芝居も好き、そして芝居として歌うことも好きだから、面白そうだなと感じています。それこそ細かな歌のニュアンスなども、より伝えやすいのかなと思うので、そこは楽しみです。

――ミュージカルにおいて楽曲に対する姿勢は、作品ごとに変わるものですか?

松下 そうですね。例えば、『キンキーブーツ』のときは、世界中で歌われているいろんなカバーを聴くことから始めました。それで、何がいいのかしっかり汲み取った上で、自分の技につなげていく。あとは、英語と日本語だと、どうしてもリズム的には英語のほうがよく聞こえるけど、僕は日本語でも、なるべくローカライズせずに楽曲としてかっこよく聞かせることができるはずだと信じているので、その部分はいつも研究しています。完全な新作に関しては、それこそ自分が演じた後、何年か経って海外で他のキャストで上演されたときに「なんで俺はこうやって歌ってなかったんだ!」という後悔がないよう、あらゆる手を尽くします。

――マリー・キュリー役を昆夏美さんが演じられますが、お会いした印象はいかがでしたか?

松下 年齢も近く、すごく仲良くなれそうな感じがしました。あと、僕はよくボケみたいなことを言ったりするんですけど、そのボケをボケとしてちゃんと受け取って笑ってくれる人でした (笑)。でも、もともとの昆さんに対するイメージと、実際に会ってみたイメージは変わらなかったです。

――もともとのイメージはどういったものだったんですか?

松下 ミュージカルでも第一線でやられているのはもちろん知っていましたし、歌が素敵な方だなという印象がありました。それこそ帝劇コンサートで初めてお会いしたんですけど、「命をあげよう」を歌っていて、それが本当に素晴らしくて。何が素晴らしいかって、技術的な上手さとかそんなことを超えて、ソウルや気持ちみたいなものが合わさった本物の瞬間、それを表現できる人なんだと。個人的な印象だけど、そういう感覚を持っているのはフラットな人だと思っているので、自分もあまり気取ることなく話せそうだと思いました。