窪田正孝さんの表情の一つひとつに心を奪われた

――今回の『スイート・マイホーム』のように、家そのものが不吉な事件を起こす“家系ホラー”を見たことはありましたか。

蓮佛 私は怖いのが苦手なんですよ……。だからホラー作品自体を進んで見てこなかったんです。ただ今回の作品はホラー・ミステリーと謳っていますけど、怖い映像が苦手な方でも見ていただける作品になっていると思います。だから私も、もうちょっと間口を広げて、食わず嫌いをしないで見ていきたいなと思いました。

――子どもとの共演シーンも多いですが、撮影はスムーズにできましたか?

蓮佛 それが初日に、物語序盤の家族3人で住宅展示場を見に行くシーンの撮影があったんですが、娘役を演じた2歳の女の子が常に動き回っていて(笑)。全然言うことを聞いてくれなくて、一度地面に下ろしたら、必ず画角から外れてどこかに行ってしまうんです(笑)。本来、子供はそういうものなので、子供ファーストでやってはいたんですけど、撮影はしなきゃいけないから、ずっと気を張っていて。だから初日はほとんど記憶がなくて、帰りの車で「私ちゃんとセリフを言えてたかな?」と不安になったぐらいでした。

――2歳だと仕事という感覚もないでしょうしね。

蓮佛 そうなんです。おそらく遊びに来ているような感覚で、本番中に録音部さんに向かって「何持ってるの?」って聞いてました(笑)。常にバタバタ走り回って、映画を撮っている自覚は全くなかったと思うんです。でも、そのおかげで自然とアドリブ的な掛け合いも生まれて、それも本編に使われていたりして。フィクションとリアリティの狭間でやれたのが、結果としては良かったと思います。

――冬の長野を描いた本作で、メインとなる清沢家の撮影は真冬の仙台で行ったそうですが、雪が降りしきる中でのシーンは、寒々とした物語に説得力を与えていました。

蓮佛 雪国に念願のマイホームを建てて、その家の中には巨大な暖房設備があって家全体を温めてくれる。そんな家族にとって理想の家が、物語が進んでいくと、不吉なことばかり起きる場所になっていって。落ち着く空間だったはずなのに、そこだけ結界が張られているような状態になって、中に入りたくなくなるんです。最初は特別だった家が、だんだん孤独や恐怖といった意味合いを持ち始めて、見え方が変わってくるというのは、ロケーションの効果も大きかったと思います。

――巨大な暖房設備のある地下はセットですか?

蓮佛 そうですね。地下のシーン自体は東京で撮影したんですけど、地下に繋がる狭い入口は、家に実際にあるもので、怖くて足が進まない雰囲気がありました。