詩を書くのは感情を配線しているようなもの

――「空想とノスタルジア」は鮮やかなイメージが次々と連鎖していく美しい詩ですが、どういうふうに発想されたんですか。

森 懐かしい未来と、初めて見た過去というか。古いと思われているものが、また巡ってきたり、変わらないことが、また自分の中でトピックスになったりってあるじゃないですか。たとえば、多くの人が文字を読まなくなって、なんでも電話で済ます時期がありました。でもメールが出てくると、みんな書きはしないけれども、読む機会は増えて。たとえば“薔薇”という字は難しくて書けないけど、誰もが読めるようになった。それって懐かしい未来であり、初めて見る過去ですよね。ただの言葉遊びではなくて、実際にそういうことがあるので、そのイメージで作った詩です。

――ネットなどの文化には柔軟なほうでしたか?

森 ネットは大好きですし、不自由な時代から詩も歌詞も書き始めているので、便利なものは積極的に取り入れます。基本的に締め切りは守るほうなんですけど、FAXすらなかった頃は、直しが欲しいというときに、スタジオでシンガーが待機している中、電話で歌詞を伝えて書き取ってもらっていたんです。それが今はメールやLINEで即座に送ることができますからね。そうやってテクノロジーは発達しているけど、変わらないものは変わらない。先ほども言いましたが、人間の美しさや愚かさは変わらないので、表現の根本にあるものも変わらないんです。

――今回の『感情の配線』は、紙の美しさや手触りが素晴らしいなと感じました。

森 今まで何冊も本を出してきたんですけど、基本的には中身を作る人間なんで、装丁などにタッチしたことがなかったんです。ところが今回は僕自身も関わることになって、花布(はなぎれ)の色まで決めなきゃいけなかったんです。本っていろんなパーツが組み合わさってできているんだと改めて知って、そういう意味では面白かったです。

――判型は横長で、見開きで掲載する詩も多くて、視覚的な面も詩に影響を与えているなと感じました。

森 ある種、デザインも詩の一部なのかもしれないですね。僕はネットも大好きですけど、やっぱり本にも思い入れがあって。いつでも手に取って簡単に見られるじゃないですか。もちろんスマホやパソコンで詩を読むのもいいんですが、せっかくなので本の手触りや匂いなども感じてほしいです。ちなみに表紙は私の娘が16歳のときに描いた絵です。何を作っているのかは分からないけど、何かを配線しているのが、このタイトルにリンクしているんです。詩を書くのも、感情を配線しているようなところがありますからね。

Information

森雪之丞自選詩集『感情の配線』
好評発売中!

装画:森まりあ
価格:2,500円(税別)
発売元:株式会社開発社

<収録内容>
森雪之丞自身がこれまでに発売した詩集から厳選、図形詩、戯曲詩の初の書籍収録。

<目次>
詩I 14 篇
図形詩 10 篇
詩Ⅱ 13 篇
戯曲詩『夢と旅の図式』5 篇による連作詩
詩Ⅲ「生きる、あなたに泣いてほしくて」

自選詩集『感情の配線』特設ページ公開
https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

■Podcast番組「森雪之丞 Poetory Readingの世界『感情の配線』」配信開始!
【出演】森雪之丞(著者)
【配信】2024年1月14日(日)正午から順次配信予定
隔週月曜日 正午頃 各種Podcastサービスで配信
※Spotify、Apple Podcast、AmazonMusic、YouTube Musicなど
【番組ハッシュタグ】#感情の配線 #推詩

森雪之丞

1954年1月14日生まれ。東京都出身。作詞家、詩人、劇作家。大学在学中からオリジナル曲のライブを始め、同時にプログレッシブ・ロックバンド「四人囃子」のゲスト・シンガーとしても活躍。1976年に作詞&作曲家としてデビュー。以来、ポップスやアニメソングで数々のヒット・チューンを生み出す。90年代以降、布袋寅泰、hide、氷室京介など多くのロック・アーティストからの支持に応え、尖鋭的な歌詞の世界を築き上げる。これまでにリリースされた楽曲は2700曲を超え、06年には作詞家30周年を記念したトリビュート・アルバム『Words of 雪之丞』が制作され、16年には40周年記念CD BOX『森雪之丞原色大百科』(9枚組)が発売された。また詩人として、94年より実験的なポエトリー・リーディング・ライヴ『眠れぬ森の雪之丞』を主催。03年には詩とパフォーマンスを融合した『POEMIX』を岸谷五朗と、11年には朗読会『扉のかたちをした闇』を江國香織と立ち上げるなど、独創的な行動と美学は多くの世代にファンを持つ。近年は舞台・ミュージカルの世界でも活躍。劇団☆新感線の『五右衛門ロック』シリーズの作詞を始め、『キンキーブーツ』『チャーリーとチョコレート工場』『ボディガード』などブロードウェイ・ミュージカルの訳詞も手掛ける他、オリジナル戯曲にも取り組み、ロック☆オペラ『サイケデリック・ペイン』(12・15)、『SONG WRITERS』(13・15)、『怪人と探偵』(19)、『ロカビリー☆ジャック』(19)、『ザ・パンデモニアム・ロックショー』(21)の作・作詞・音楽プロデュースの公演を成功させている。

PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI