アドリブが苦手で、最初は作品のオファーをお断りしていたんです

――本作は冒頭において、「この映画は8人の出演者たちの即興芝居によって紡がれていく物語である」と説明があるとおり、俳優によるアドリブでストーリーが展開していくミステリー映画になっています。高橋さんにとってもこれまでにない作品だったと思いますが、出演オファーを受けた時のお気持ちは?

高橋克典(以下、高橋) 実はアドリブが本当に苦手で。今まで、あまりお仕事をお断りしたことはないんですけど、最初はこの作品のオファーについてはお断りさせていただきました。でも、プロデューサーが過去に映画でご一緒した方で、根気強く口説いてくださって、あまりにもしつこかったので、うっかり「やるよ」と言ってしまいました(笑)。

――当初は出演を断っていたなんて驚きました。

高橋 OKを出したことにもすごく後悔して、撮影当日も気が重かったです(笑)。

――高橋さんは本作の事件における被害者の幼馴染みで村の実力者である五階堂猛役を演じられています。即興劇への挑戦という点も含めて、役を演じる上で準備したことや意識したことはありますか?

高橋 僕は事前にしっかり考えちゃう方なんですけど、今回は全然、何も考えてないんです。プランだって立てようがないから。ただ、五階堂も他の登場人物同様に、事件の犯人である可能性が高い過去を抱えている。そして、それは自分としても辛い過去だから、誰にも触れてほしくはない。ゆえに、周囲に対して非常に高圧的に構えている。それこそ威圧感で押していくようなおじさんでいようかなとは思っていました。

――登場人物一人ひとりに因縁や思惑があり、それが交錯しながら結末へ向かっていく展開も見どころだと思いました。

高橋 本当に出たとこ勝負で嘘をついて、それぞれが必死で自分を防御しながら人に罪をなすりつけようとしているから、結構ヒヤヒヤするんですよ。でも、それが良い方向に転がった部分もあったというか、僕はラフな気持ちでお芝居をすることに前から非常に興味があったので、演じながら掴んだこともありました。

――先ほどあまりプランを考えなかったとおっしゃっていましたが、普段のドラマや映画出演などの場合は、役をかなり作り込んでから臨むんですか?

高橋 そうですね。ただ、その点が自分としてはちょっとどうなんだろうと、長年抱えていた悩みでもあったんです。それが本作を通して、こういうお芝居もありだなと思えるようになりました。ト書きもいただいていたんですが、それもしっかり覚えたわけではなく、さらっと1、2回読んだだけ。

――役を作り込みすぎなかったことが功を奏したと。

高橋 もう自分の言葉に置き換えちゃおうと。その場で一所懸命考えて、結果として変な間や違和感が生まれるのもありなんじゃないか。そうやって自分に都合のいいように理由をつけて乗り切るしかなかった感じです(笑)。甘いところも多々ありましたが……。

――光岡麦監督から、演技や演出に関して何か指導はありましたか?

高橋 本当にテンパってまして、今回ばかりは監督の言葉も何も覚えてないんです(笑)。それだけ周りが見えてなかったんですね。

――現場の雰囲気はいかがでしたか?

高橋 出演者の方々が自分と同じように緊張を抱えているから、仲間意識というか、不思議な連帯感はあったような気がします。それに、休憩中だけは共演者の方と一緒に写真を撮ったりして楽しむ余裕はありました(笑)。