装備を取られるような感覚があって、演じているという境目をなくしていった

――『不死身ラヴァーズ』の原作コミックは読まれましたか?

佐藤寛太(以下、佐藤) 読みました。紆余曲折ありながらも好きという感情を原動力に突き進んでいく主人公の姿に心を動かされましたし、エネルギーに溢れていて面白かったです。映画では、見上愛さんが演じた長谷部りのと、僕が演じた甲野じゅんの立場は逆転しているんですが、映画の脚本も中核となるものは変わっていないなと感じました。

――同じキャラクターでありながら、世代や職種が違う甲野じゅんを幾つも演じていますが、役作りはどんなことを意識しましたか。

佐藤 最初は音楽が好きだったらこうなっていただろう、大学に通っていたらこうなっていただろうと自分が選択しなかった人生を考えて、それぞれ演じ分けようと準備していたんです。ところが松居大悟監督としては、いろいろなキャラクターを作って演じ分けるのではなく、僕の素の部分を出したほうが、今回の役にハマるだろうと思ってくださったみたいで。現場では僕が用意したものを崩していくような、装備を取られるような感覚があって、演じているという境目をなくしていくことを松居監督はしていた気がします。なので徐々に演じ分けようという意識はなくなっていきました。

――なぜ松居監督は、佐藤さんの素の部分を大切にしたと思いますか?

佐藤 どの職業、どの年齢でも一貫して、「りのが恋するじゅん」という人物の本質が欲しかったからだと思います。

――自然豊かなロケーションが印象的でしたが、それによってお芝居に与える影響はありましたか。

佐藤 自然豊かな場所で撮影をすると開放感がありますし、自分の地元でもないのに懐かしさもあって、そういう環境によって引き出されるものはありました。たとえば風が吹くことで揺れる髪というのもスクリーンで観ると印象に残りますが、そういうところもロケーションに負うところが大きいです。

――見上さんの印象はいかがでしたか。

佐藤 りのという台風の目のようなキャラクター性をぐるぐる見せてくれて、コロコロ表情が変わって、エネルギーに溢れていて、素敵な女優さんだなと感じました。

――りのと見上さんに共通する部分は感じましたか?

佐藤 僕は初共演なので分からなかったんですが、(青木)柚が「見上愛と長谷部りのは近いところがある」と言ってて。見上さん自身は、りのは自分から遠い人物だと思っていたそうなんですが、その言葉で近いところもあるんだと感じたらしいんです。『不死身ラヴァーズ』のストーリーだけ聞くと、恋をしている女の子は無敵で、いろんなことに直面してくじけそうになりながらも立ち向かっていくキラキラ系ムービーと感じると思うんです。でも、それだけにとどまらない深さもあって。りのは、惨めだったり、情けなかったり、人に見せたくないような自分の弱い部分に向き合っているところがあって、それが松居イズムだと思うんですが、見上さん本人の文化的側面みたいなところがあるからこそ、キャラクターに説得力が生まれたと思うんです。

――見上さん自身が持っているものが、りのに結び付いたということでしょうか。

佐藤 たとえば普段から見上さんは現場入りするときに、人の心にぱっと花を咲かせてくれるような笑顔で「おはようございます!」って入ってきてくれるんですが、ただただ明るいだけじゃない一面もあるからこそ、りのの深い部分に上手く作用しているんだろうなと感じます。

――佐藤さん自身、じゅんと共通する部分はありましたか。

佐藤 先ほどお話しした通り、いろいろ準備していこうと思っていたんですが、結局は全部自分だったというか。演じていて、自分と遠いとは感じなかったし、かと言って近いとも思わなかったんですが、他人事には思えないキャラクターだったんですね。だから役作りに悩むことも少なくて、その日どうやって見上さんと向き合うんだろうというワクワクが勝っていました。