自分の内面をさらけ出したような恥ずかしさは初めての経験だった
――じゅんは何度でも別の甲野じゅんとして、りののことを忘れて現れますが、いろんな甲野じゅんをお芝居する難しさはなかったですか。
佐藤 自分は格闘技をやっているんですが、インターバルを挟むとリセットされる瞬間があって。全く違うものではあるんですが、そこから考えていきました。ただ誰しも、昨日の気分と今日の気分って違うし、極端に言うと10分ごとに気分も変わっていくものじゃないですか。朝起きて、どうやって自分の状態を受け入れるのか、どう一日を過ごすのかって、人間のいろんな側面が出やすいと思うんです。その日は楽しく生きようと思う日もあれば、その事実を受け入れられずに一歩も外に出たくない日もあるだろうし。甲野じゅんを演じるという作業は、僕の想像でしかないんですけど、めちゃくちゃリアルを伴って考えられた気がするんですよね。あと大きかったのは(神野)三鈴さんの存在です。
――大学生の甲野じゅんの母親役ですね。
佐藤 三鈴さんとの共演シーンは一日だけで、撮影が7割ぐらい終わったタイミングでした。三鈴さんは僕の作り上げたじゅんを深く信じてくれて、目が合っただけで「お母さん」と呼びたくなるような存在感と優しい眼差しがあって、鳥肌が立ちました。三鈴さんとの共演シーンがあったからこそ腹に落ちたというか、残り3割の撮影も自分の考えるじゅんを信じて臨むことができました。今回の映画は三鈴さんを始め、周りの環境に恵まれていたので演じやすかったですね。
――松居監督の演出はいかがでしたか。
佐藤 僕も松居監督も福岡県出身で、同郷というのもあるかもしれませんが、使っている言葉が近いという感覚があって、友達のお兄ちゃんみたいな距離の近さがありました。僕は学生時代から松居監督の作品が大好きで、尊敬しているからこそ、それに対する恐れみたいのも最初はあったんです、でもインしてみると、すごくニュートラルな方で、自分の撮りたいものはあるけど、まずは役者たちの好きなようにやらせてくれるんです。現場で生まれていくものを大事にしてくれるから、演じていて楽しかったですし、幸せな時間でした。また松居監督の作品に出たいですね。
――完成した作品を観た感想はいかがでしたか。
佐藤 自分のお芝居に関しては、同じ役だけど違う側面が出るキャラクターを演じるにあたって、いろいろ考えていたものを、松居監督が上手く剥がしてくれて。撮影中は気付かなかったけど、裸のままでスクリーンの中に立っているなと思いました。自分の人間くさいところ、ダサイところがたくさん出ているので恥ずかしかったですね。映画全体では、とにかく見上さんの表情が素晴らしくて、人間味に溢れていて、走って誰かに会いに行きたくなるようなエネルギーをもらえました。
――今回みたいに裸になる感覚は今まで経験したことはありましたか?
佐藤 自分のお芝居が拙くて恥ずかしいとか、反省点があってまともに観られないことはあるんですが、自分の内面をさらけ出したような恥ずかしさは初めての経験でした。