映画初主演だからと気負うことなく撮影に臨むことができた
――『THIS MAN』が初の映画主演、初のスリラー映画ということになりますが、オファーがあったときのお気持ちはいかがでしたか。
出口亜梨沙(以下、出口) うれしいという気持ちが一番でしたが、スリラーやホラーなどの怖い系は、これまで避けてきたジャンルなんです。文字や漫画で読むのは好きなんですが、どうしても映像が苦手で……。だから普通に撮影できるのかと心配になりました。
――『THIS MAN』は、「2006年頃、夢の中で眉がつながった奇妙な風貌の男と出会ったという女性患者がニューヨークの精神科で多発した。彼女らの証言を元にモンタージュ写真を作成し、ネット上に公開したところ、世界各国で夢の中で同じ男を見たという証言が多発。謎の男は『This Man』と呼ばれ、恐れられた」という世界的に有名なネットミームを基にしています。
出口 都市伝説は大好きで、よく2ちゃんねるで「怖い話」の掲示板を読み漁っていました。だから今回の都市伝説も知っていました。
――脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。
出口 シンプルに怖いというのもありましたし、私の演じた八坂華だけではなく、登場人物それぞれの細かい感情の動きが描かれていて、人間ドラマもしっかりしているなと感じました。
――クランクインの前に共演者の方々と入念な本読みが行われたそうですね。
出口 映像作品では珍しいことなんですが、天野友二朗監督が何度も本読みの時間を作ってくださり、夫役の木ノ本嶺浩さん、娘役の桑原のえちゃんとだったり、華の女友達とだったり、組み合わせはバラバラだったんですが、一週間ぐらいかけて本読みをさせていただきました。そのときに監督とも台本のすり合わせを行い、シーンごとの感情や、セリフの言い方なども相談することができました。たとえば夫婦の仲の良さをどうすれば出せるのかを木ノ本さんと二人で話し合い、監督に提案したりと、その流れで撮影中も積極的に意見を言うことができ、とてもスムーズな現場でした。
――八坂華というキャラクターにはどんな印象を受けましたか。
出口 ふわふわした少女みたいな女性で頼りないところもある。でも自分の周りで次々と不幸なことが起きて、徐々に意識が変わり、最後は自分を犠牲にしてでも世界を救いたいという強さを持つ。いわば華の成長物語でもあるなと感じました。
――前半と後半では華の顔つきも変化したという印象を受けましたが、意識して演じたのでしょうか。
出口 監督に言われたのは、華が幸せであればあるほど、シリアスな局面を迎えたときの不幸さが際立つと。だから監督、木ノ本さんの3人で、どうやったら自然に幸せに見えるかなどを、何度も話し合いました。順撮りではなかったので、そういった感情の変化を表現するのは難しかったです。
――現場の雰囲気はいかがでしたか。
出口 “謎の男”を演じた役者さんがムードメーカーでした。特殊メイクに3時間ぐらいかかるので、その間、ずっと面白いことを話しているんです。もちろん本番では、みんな切り替えていたんですが、あまりにも現場が楽しくて、怖いのかどうか分からないときもありました(笑)。
――撮影中、映画初主演のプレッシャーはありましたか?
出口 出演するシーンが多いので、そこの大変さはありましたが、主演だからという気負いはなかったですね。そこは監督や共演者の方々にも助けられました。
――監督の演出はいかがでしたか。
出口 ちゃんと完成したときのビジョンが見えているからこそ指示が的確で分かりやすいんですよね。完成した作品を観たとき、監督の意図を現場以上に感じることができました。
――初めて完成した作品を観た感想は?
出口 スリラー映画と聞くと、どんより暗いイメージを抱く方も多いと思うんですが、『THIS MAN』は色使いが綺麗で新しいなと感じましたし、ただ怖いだけじゃなく、人間ドラマとしても、いろいろ考えるきっかけになる作品だなと思いました。