自分が「最強」になれるゴスロリファッションも武器に“ラリーの面白さ”を広めようと奮闘

――現在、個人運営の「プライベーター」として「全日本ラリー選手権」への参戦が続いています。スポンサー集めなど、すべてを自身で手がけているそうですね。

兼松 株式会社JPCの退職後に別の会社で働きながらラリードライバーと兼業して、ちょうどその頃、プライベートでの人生を見つめ直すできごとがあり、将来を考え直したんです。転職もその理由からで、どこかのチームに所属させてもらいながら活動を続ける選択肢もあったんですけど、ふと「ラリードライバー1本でやってみよう」と決意して。プライベーターとなってからは、苦手意識から断っていたイベント出演のお話も引き受けるようになり、自分で作った企画書を手に、スポンサーさんの交渉もすべて自分でやるようになりました。

――ラリーを共に駆け抜ける相棒として、スズキのスイフトスポーツを選んだのも当時の変化で。

兼松 参戦する「全日本ラリー選手権」では、クルマの排気量や駆動形式によるクラス分けがあり、プライべーターへの転向後は、当初の「JN-6クラス」からステップアップするため、上のクラスへと進みたかったんです。候補は、1500cc以下の前輪駆動車が対象の「JN-5クラス」か、1500cc超〜2500ccの前輪駆動車と4輪駆動車が対象の「JN-4クラス」の2択でした。でも、「JN-5クラス」はトヨタのヤリスが主力車種で、ベテランドライバーの方も多く参戦し、資金力あるチームも多い印象だったので、戦略的に考えて「JN-4クラス」を選び、クラス内の主力車種とされるスイフトスポーツに乗りはじめました。

――ラリー参戦の一方、YouTubeチャンネルではプライベートの愛車、スバルのBRZも紹介しています。

兼松 元々、プライベートではアバルトの124スパイダーが愛車でしたけど、サーキット走行で事故に遭ってしまったんです(苦笑)。修理する予定でしたけど、世界情勢の影響でアバルトの本国であるイタリアからの部品調達か難しくなったので、別のクルマにしようとなって。BRZを選んだのは、サーキット走行の練習用にピッタリと思ったからです。

――トレードマークのゴスロリファッションも、目を引きます。

兼松 2021年の夏頃からです。前段があり、当時、詳しくは言えないんですけど、人生で心に強く残るほどの嫌なことがあって。その経験を乗り越えたい思いから、金髪にしたら「由奈の金髪は田舎娘が無理してるみたい」と直接、心ない一言を言われたんです。誰かに見せたくて金髪にしたわけでもなく「やりたいファッションをやっているだけなのに、なぜ、言われなきゃいけないんだ」と思い、ふと、ゴスロリブランドのショップに駆け込みました。

――そこで衝動的に、ゴスロリファッションに手を出した理由は?

兼松 強いと言ったら、ゴスロリだと直感したので(笑)。最初は、今もスポンサーとして、活動を支えていただいている原宿のゴスロリブランド「ATELIER-PIERROT」さんの店舗に飛び込んで「最強にしてください!」とお願いしたんです。店員さんにカッコよくて強いコーディネートを提案してくださったのが、私のゴスロリデビューでした。

――自分を貫く武器を手にしたかのような。最後に、ラリードライバーとしての楽しさや目標を伺えれば。

兼松 ラリーが好きな気持ちは変わらず、本業で続けられているのはありがたいです。これからも、ラリーを知らない人たちに、その面白さを伝えていきたいと思っています。スポンサー集めの企画書では「ラリーをたくさんの人に知ってもらう。みんながラリーを知っている世界を作る」と掲げていて、自分は何をするべきかと考える毎日です。昔は、女子であるのを前面に出すのは「邪道」と考えていたんですけど、開き直ってからは、環境も変わりました。YouTubeチャンネルを通して「兼松さんの影響でラリーを見に行きました」というコメントも寄せられるようになり、うれしいです。私にできることはちっぽけですけど、いつか、野球やサッカーと同じくらい、ラリーの認知度が上がれば。

兼松由奈

9月2日生まれ。岐阜県出身。学生時代に兄に譲ってもらったDC2インテグラにて意欲的にモータースポーツ活動を続け、2018年にラリーデビュー。 2019年に中部近畿ラリー選手権DE6クラスにて3度の優勝でシリーズ2位を獲得。 2020年はCUSCO RACINGより全日本ラリー選手権JN6クラスへ出場し、2度の表彰台を獲得。 2021年からラリーだけでなくKOSHIDO RacingよりKYOJO CUPへも参戦し、翌年はCUSCO RACINGよりXCRスプリントカップ北海道へシリーズ参戦。またKOSHIDO RacingよりKYOJO CUPへの参戦と全日本ラリーへのスポットで参戦。2023年からはプライベーターとして、全日本ラリー選手権JN4クラスへ挑戦中。趣味は、ゴスロリファッションと愛車BRZでのタイムアタック。

PHOTOGRAPHER:SYUHEI KANEKO/画像提供:TAKUTO NISHIO,INTERVIEWER:SYUHEI KANEKO,衣装提供:ATELIER-PIERROT