七五三掛龍也さんは何事も手を抜かずにやられている姿勢が素敵

――W主演のお二人の印象をお聞かせください。カビ人間を演じる七五三掛龍也さんとは共演シーンも多いです。

伊原 七五三掛さんの声は、明るさもあり、儚さもあり、キュートさもあって。役に入り込むことなく、そのままセリフを読んだだけで成立するんじゃないかと思うぐらい、私が想像していたカビ人間の声にぴったりでした。会話を大事にしてくださる方で、このシーンについてどう思うかを話し合ってくださったり、デュエットはハモリが難しいので、稽古のときに一度は絶対合わせるようにしようと提案してくださったり。何事も手を抜かずにやられている姿勢が素敵でした。

――聡役の吉澤閑也さんはいかがですか。

伊原 同じシーンが少ないので、そこまで稽古を一緒にすることはないんですが、すごく朗らかな方で、ハートが強い印象です。

――ハートが強いと言うと?

伊原 本読みのときに、みんなの前で一発ギャグをやってくれたんです(笑)。ムードメーカー的な明るさのある方ですね。聡は、加藤梨里香ちゃん演じる真奈美に引っ張られる、ナヨナヨしたところが魅力的な男の子で、普段の吉澤さんとは全く違うキャラクターなので、どう演じるのかが楽しみです。

――稽古場の雰囲気はいかがですか。

伊原 めちゃくちゃいいです。皆さん、いろんな作品に出られて経験値もすごい方ばかりなんですが、私のような若手でも、いろいろチャレンジさせてくれるような広い心を持った方たちばかりなので、稽古中も変に緊張することがないんです。それに先輩方のほうから、たくさんの案を出してくれるんです。それをウォーリーさんも柔軟に採用してくださるので、私も新しいことにチャレンジしようという気持ちになれます。だから和やかでクリエイティブな稽古場になっていますね。この作品が大好きな方ばかりで、良いものを作ろうという気持ちがひしひしと伝わってくるからこそ、私も負けないように食らいついていかなきゃなって思います。

――「和やかでクリエイティブ」というのは、ウォーリーさんの雰囲気作りも大きいのでしょうか。

伊原 大きいと思います。稽古の進め方も丁寧なんですよね。大抵は俳優が自分の役を考えて演じてみて、演出家にアドバイスをもらって作り上げていきます。でも今回は本読みが終わった次の稽古で、ホワイトボードに全員の役の名前を書いて。まずウォーリーさんが役の性格を一人ずつバーっと書いていって、それぞれの役を全員で深掘りしていく時間があったんです。

――それはすごい!

伊原 たとえばおさえだったら、私がこういう子だと思っていますとお話して、それに対してウォーリーさんが「おさえは何歳ぐらいの設定なの?」と幾つかの質問をしていく。それに答えていった後、「他のキャストはおさえをどう思う?」と聞いて、皆さんから見るおさえ像をいただくんです。それを全キャラクターでやっていくので、一人で役を作り上げる孤独さみたいなものがなくて、役を作る上でたくさんの要素をもらえる環境でした。

――過去にそういう経験はありましたか。

伊原 キャストの少ない作品だったら、みんなで本読みをして、その作品についてどういう解釈をしたのかディスカッションすることはありますし、時代物だったら、その時代背景をみんなで共有する時間もあったりしますが、こういうザ・ミュージカルで、一人ひとりの役を全員で考えて掘り下げていくのは初めてでした。

――皆さんの意見を聞いて、おさえの捉え方が変化した部分もありますか。

伊原 おさえを取り巻く環境の理解が深まりました。おそらく、おさえがいるのは小さな街だと思うので、大抵の人は顔見知り。誰と誰の仲が良いかみたいな関係性を共有できたので、空間把握も深まったのは役作りの上で大きかったです。

――今回、音楽監督を務める中村大史さんの音楽はいかがでしょうか。

伊原 ストレートプレイでも映像作品でも音楽は必要不可欠で、メロディーがシーンを豊かにしてくれるじゃないですか。さらに今回はミュージカルということで、『ダブリンの鐘つきカビ人間』に合う音楽はどんな感じになるんだろうと楽しみにしていたんですが、完成した音楽を聴いたら本当に素晴らしくて、「もう、この曲しかないじゃん!」みたいな、パワーをもらえる楽曲ばかりでした。

――ケルト音楽を基調にしているそうですね。

伊原 使用している楽器もあるのか、異世界に迷い込んだような印象がありました。ただ一口にケルト音楽と言っても、一色じゃないんですよね。明るい曲もあれば、しっとりしたバラードもあるし、ポップな曲もあれば、歌い上げる曲もある。共通して言えるのはリズムが複雑だなと。変拍子もあるなど、ずっと一定のリズムではないので、そこは稽古を通して合わせていきたいですし、キャストの皆さんがどうやって自分のものにしていくのかも楽しみです。