何事も楽観的に考えられるナン丸が羨ましかった

――『ガンニバル』などの話題作を手掛けるディズニープラスのコンテンツブランド「スター」にて、『七夕の国』がドラマシリーズ化。本作で主人公の“ナン丸”こと南丸洋二を演じますが、オファーがあったときのお気持ちはいかがでしたか。

細田佳央太(以下、細田) オファーでお仕事がいただけるのは本当にありがたいことなのでシンプルにうれしかったです。大役なんですが、ナン丸という親しみやすい役のおかげなのか、「どうしよう……」ってパニックになったり、プレッシャーを感じたりすることなく、早く演じたいなというポジティブな気持ちが大きかったです。

――映画初主演を務めた『町田くんの世界』やドラマ『ドラゴン桜』など、漫画原作の作品に幾つも出演していますが、漫画の実写化で心がけていることはありますか。

細田 原作者さんに対する敬意が第一で、それは僕ら演者、プロデューサーさん、監督、脚本家さんなど、みんなに言えることです。ただ僕の核になっている『町田くんの世界』は、原作をそのまま投影している作品ではありません。そこがスタートだったからこそ、原作にとらわれすぎる必要もないのかなと。もちろん原作者さんと齟齬が生まれないようにコミュニケーションを取るのは必要不可欠ですし、原作ファンのことも考えないといけません。今回の『七夕の国』の脚本は漫画に忠実なので、きっと原作ファンの方も楽しんでいただけると思いますし、原作の世界観を大切にすることは意識しました。

――初めて脚本を読んだ印象はいかがでしたか。

細田 先に漫画を読んでいたおかげで、脚本は1回で理解できました。それぐらい丁寧に原作を翻案しているという印象です。

――ナン丸というキャラクターはどう感じましたか。

細田 この漫画が描かれた30年前と今が決定的に違うのはSNSの存在だと思います。誰でも手軽にたくさんの情報を見られるようになったことで、何が正しいのかという精査を、自分でしなきゃいけない。それぐらい情報に溢れているので、何が正しいのか分からない。自分のやりたいことが本当に幸せなことなのか、果たして幸せになれるのか、情報過多のせいで現実的なことばかり考えてしまい、将来に対してネガティブになってしまう。それに対してナン丸は、特にやりたいことがない。周りから「就活しなきゃ」と言われたから就活するけど、自分から前のめりでやる訳でもない。みんなが仲良く楽しく暮らせればいいんじゃないかという楽観的なところがあって。その考え方は、今の若者とは決定的に違うなと思いますね。

――ナン丸の楽観性を羨ましいと思いますか?

細田 羨ましいです。現代にナン丸のような余裕を持てる人がどれだけいるかという話で、いつも張り詰めていていいことってないと思うんです。結局、自分の精神が追い詰められてしまいますからね。

――ご自身とナン丸で共通する部分はありますか?

細田 僕は常に先を考えていないと不安ですから、根本的な考え方は違います。ただナン丸の飾らない感じが演じやすかったんですよね。僕自身、ナン丸のようなキャラクターが大好きですし、そういうタイプの男の子を演じさせていただくことも多いので、そういう面が共通しているのかもしれません。

――瀧悠輔監督から「お芝居を軽くしてほしい」と言われたとお聞きしました。どういう意図だと捉えましたか。

細田 正直、最初は分かりませんでした。監督が仰っていたのは、僕のお芝居がドラマっぽいということ。たとえば、ながら見をしていても展開が伝わるような、分かりやすいお芝居だったみたいなんです。そういうお芝居だったところを、「ナチュラルなものにしてください」というオーダーでした。それが難しくて、本読みから撮影まで5日ぐらいあったのですが、掴めないままクランクインしました。それでインして3日目ぐらいに、ナン丸が丸神ゼミを覗きに行くシーンで、多賀谷守役の濱田龍臣くん、江見早百合役の木竜麻生さんとお芝居をしているときに、何となく「軽いってこういう感じかな」と掴めたんです。それまでは、そもそもお芝居の軽い重いが分かっていなかったですし、「軽くしてください」と言われたことで、逆に軽く軽くっていうことを意識し過ぎていたんですよね。

――どういったときに、ご自身のお芝居が軽くなったなと感じたのでしょうか。

細田 たとえば台本上だとセリフはここまでだけど、もうちょっとカット尻を長く使いたいということがあります。それで自分なりに、ナン丸だったらこう言うかなと考えていたアドリブと、監督が思っていたことがドンピシャだったんです。僕と監督のイメージがかみ合ったことで自信になりました。アドリブって勇気が必要なんですよ。だから普段はあまりやらないのですが、今回はアドリブでやってみたことが、ちょいちょい本編でも使われていたのでホッとしました。