GRAND MASTERでレコーディングを一から教えてもらった

――今回はアーティストとしてではなく、音楽制作者としての側面を中心にお話を伺っていきます。最初にレコーディングに興味を持ったのはいつ頃ですか?

Novel Core 2018年にジブさん(Zeebra)の「GRAND MASTER」に所属が決まったタイミングです。キングギドラやニトロ(NITRO MICROPHONE UNDERGROUND)、KAMINARI-KAZOKU.などをやられているジブさん周りのプロデューサーさんやエンジニアさんと接する機会が増えて。それまでフリースタイルしかやってこなかったので、楽曲制作に関しては右も左も分からない状態で、どうやってレコーディングするのかを一から教えてもらうというスタートでした。今もライブでちょくちょく歌っているインディーズ時代のデビューシングル「Metafiction」(2018年12月5日リリース)を制作するとき、僕にレコーディングのやり方を教えるために、ジブさんが『Original Rhyme Animal』のバースを僕のMetafictionのインストの上で蹴ってくれて。そのデータは宝物で、今でも持っています。

――「Metafiction」のレコーディングにはZeebraさんも同行したんですか。

Novel Core はい。GRAND MASTERの制作スタジオで、ジブさん自らブースに入ってくださって、「マイクに近い距離でデカい声で歌うと、波形がこうなるでしょう。逆に離れた距離で歌うと、こんな感じになる」と具体的に手取り足取り教えてくれました。それをきっかけに自分でも音楽制作を始めたんです。当時からYouTubeにはやり方を解説してくれる動画がたくさんありましたからね。GarageBandやLogicなどのDTMも携帯で簡単にできるようになっていたし、身近なアーティストも自宅で音楽制作をしていたし。近い世代のアーティストでいくとLEXなんてiPadでミックスもトラック制作も全部やっていたから、そういうのも参考にしながら、自分にできることは何かを考えて。YouTubeでフリートラックを見つけて、それを落として、Logicでいじってカットして、ボーカルを乗っけて、みたいなことを見よう見まねでやっていました。

――デビューするまで周りに楽曲制作している方はいなかったんですか?

Novel Core いなかったですね。高校を1年でドロップアウトしているのもあって、とりあえずラップをしたいから、フリースタイルキッズの集まりの中に自分もいる、みたいな感じでした。

――GRAND MASTERで出会ったプロデューサーさんやエンジニアさんは、かなり上の世代ですが、どういう学びがありましたか。

Novel Core 基礎能力みたいなところが違うんですよね。僕らの世代はラップのレコーディングをするとき、基本的に「パンチイン」と言って、一部分を録り直す手法を多用するのが一般化しているんです。自宅のDTMでも好きなように切って貼ってができますからね。それに対してアナログなレコーディング機器でレコーディングをしていた時代は、1曲つるっと録るのにすごくカロリーを使っていたと思うんです。その時代を生き抜いてきた人たちから直で教わったことで、ボーカルスキルに対する意識が身についたなと感じていて。「ミスったらパンチインで2小節を録り直そう」ではなく、「できる限り8小節ぐらいはつるっと録ろう」みたいな。なるべく2小節ずつとかブロックで録ることをしないというのは、その時期に叩き込まれました。僕はボーカルを録るのが早いほうだと思うんですが、それは当時教えてもらったことが役に立っています。

――ボーカルスキルの意識とはどういうことでしょうか。

Novel Core 一例を出すと、リリックを書くときに息継ぎの位置などを全く考えていなかったので、どうやって録るのか分からなかったんです。その辺をジブさんに添削してもらったんですが、「息継ぎを入れないとライブで歌えないよ」みたいに、いろいろなアドバイスをいただきました。イメージだけでリリックを書いたために、ちっちゃい声だったら歌えるけど、ちゃんと声を張ってブースで歌うと「全然無理……」みたいな。そういうことを意識しながらリリックを書くみたいなことは当時教わりました。

――今でもインディーズ時代に学んだレコーディングの方法は踏襲しているんですか。

Novel Core  あえてブロックで録ることもあるんですが、基本的にはつるっと録ることのほうが多いです。曲によっては頭から終わりまでファーストテイクで録って、エディットもせずにミックスだけして終わりみたいな曲も少なくないので、当時学んだテンション感は大事にしています。

――ブロックで録るときは、どういう利点があるのでしょうか。

Novel Core  いい意味で不自然になるんですよね。明らかに息継ぎが入らないとおかしい位置に息継ぎが入らず、矢継ぎ早に次のボーカルが来るというのが良いフックになって、違和感になるというパターン。あとは声色を小節ごとに変えるとか、デカい声で喚き散らすように歌っていたフレーズから、次の小節の頭で急にボソボソ歌うとか。そういうのはつるっと録っていると、なかなか表現が難しかったり、余計なリップノイズが入ったりするので、ブロックで分けて録ります。

――最近の楽曲で、それぞれの例を挙げていただけますか。

Novel Core  つるっと録った曲で分かりやすいのは「I AM THE」です。ブースで2、3回だけ練習をして、そのままRECボタンを押してもらって、頭からケツまで1本録って終了でした。そういう一発録りの緊張感が出た曲だなと思います。パンチインの手法を多めに使った曲で言うと、6月にリリースした「SHIKATO!!!」ですね。ジャージードリルのめっちゃ速いビートで、ラップを詰め込みました。息継ぎなしで次から次にラップが続くみたいなのを、不自然に表現したかったので、幾つかパンチインを使って録りました。不思議なもので、レコーディングのときはパンチインしないと歌えなかったのに、ライブでやってみると一息で歌えるものなんですよね。

――Core さんは、めまぐるしく歌い方を変える曲が多いですよね。

Novel Core 1曲の中で同じ声の種類をずっと使っている曲のほうが少ないですね。極端に喉をすりつぶしたようなラップをするパートから、急におちゃらけて歌うようにラップするとか。ボソボソ歌うところと、めちゃくちゃデカい声で歌うところと分けたりとか。ラップの曲に多いんですが、たとえば「SORRY, I’M A GENIUS」は展開が激しいですし、最近作っているのも歌い方を極端に変える曲が多いです。そういうアプローチがラップの曲で多くなる理由として、ヒップホップのビートにはループ文化があるじゃないですか。一定のリフがずっと繰り返されるので、同じフロー、同じ声色で続けていると、2分半もたないんです。今はサブスクでシャッフルして聴くのが普通で、アルバムでゆっくり聴く人よりも、「おっ!」って思ったところをかいつまんで聴いている人たちのほうが圧倒的に多い。やっぱり最後まで聴いてもらいたいから、1曲で4曲聴いたぐらいのバリエーションを見せられるように意識しています。

――そういう意識はデビュー当時からあったんですか。

Novel Core キャリアを積んでいく中で、どんどんそういう意識が芽生えていますし、日本だけではなく世界中で音楽の聴き方が変わっているので、そこにコミットしてやっています。

――1曲で歌い方を変えるというアプローチで影響を受けたアーティストはいますか。

Novel Core 昔から海の向こうのラッパーたちは、自分の中に人格をもう1個作って、それを曲の中に登場させるみたいなことをやっています。エミネムのスリム・シェイディが代表格だと思いますが、ビートの中で急に違う人が出てきたみたいな感覚になるボーカルディレクションの影響は大きくて。中でも僕が一番好きなのはケンドリック・ラマーで、彼自身がプリンスから影響をだいぶ受けているみたいですが、ビート上でラップしていたと思ったら、急に喋り始めたりと、コロコロ人格が変わるんですよね。