演出家から「イギリス人の感覚を理解してほしい」と言われた
――稽古期間中、役者さん同士が下の名前で呼び合って距離感を縮めたとお聞きしました。
吉沢 ムーブメントのディレクターでヌノさんという方が入られているのですが、イギリス版の舞台で初代ケンタウロス役を演じられているんです。役者、スタッフさん、双方の立場を経験している彼がカンパニーを温かく包んでくれて、それぞれのことをしっかりと尊重してくださいました。自然と役者同士の距離感、役者とスタッフさんの距離感が近くなるような空気作りをしてくださって。最初の動きの稽古のときにボールを使ったゲームをしたのですが、「ボールをパスするときは、その人の下の名前を呼んでパスしてください」という指示があって。初めましての人が多い中、そのゲームがあったおかげで自然と下の名前で呼ぶようになって、温かい空気を作ってくださったんです。
――稽古中の演出で特に印象的なことは何でしたか。
吉沢 照明だったり、魔法のくだりであったり、様々な要素がある演劇なので、自分の思いだけでいけるところが、そこまで多いわけではないんです。その上で、ちゃんと一つひとつの動きを感情で繋げてほしいというのがエリックさんの指示でした。あと、これから舞台を観ようと思っている方にも、ぜひ知っていてもらいたいのですが、エリックさんから「イギリス人の感覚を理解してほしい」と言われました。一例を挙げると、イギリス人は自分が思っている気持ちと裏腹なことをしてしまう人が多く、心の中では相手のことを深く思っているけど、正直に言えなくて、怒りで表現してしまう。ちょっと日本人の感覚に近いのかもしれません。
――確かに日本人も本心を素直に表現するのが苦手かもしれません。
吉沢 ただ怒っているのではなく、その裏には愛があるからこそ、こういう態度になってしまう。そういう複雑な感情を、ちゃんと理解して演じてほしいと言われました。
――稽古期間中、平方さんとご一緒する機会はあったんですか、
吉沢 稽古場ではずっと一緒でしたし、二人で話し合うことも多かったです。
――Wキャストの関係性はどういうものでしたか。
吉沢 二人で一つの役に向き合うので、どこかでライバル関係みたいなものが生まれるのかなと思っていたんです。ですが実際には、そんなことは全くなくて。互いで互いの良い部分を吸収し合って、それぞれのハリーになっていきました。それぞれが真摯にハリーに向き合って、惜しみなく自分たちのアイディアを出し合うことができたんです。だから同志のような関係性でした。近くで僕らを見てくれたキャストの方々とスタッフさんからは、「同じ演出で、同じ役を演じているのに、違うハリーが生まれているのが面白い」と言っていただきました。当事者の僕ら自身は分からないんですけどね。
――これから舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』を観ようと思っている方々に向けて、見どころをお聞かせください。
吉沢 本作で描かれているのが19年後のハリー・ポッターの世界だと知らない方が意外と多いんです。僕が青年時代のハリーを演じると勘違いされているようで(笑)。悪を倒すヒーローというハリーのイメージで終わっていると思うのですが、この舞台では大人になったハリー・ポッターが子どもとの接し方など、大人なりの問題を抱えている。遠い存在だと思っていたハリーも、我々と同じようなことに悩んでいるんですよね。そこは映像で描かれていないので、舞台ならではの見どころです。あとは映像でしか観たことのない魔法が目の前で繰り広げられるので、ぜひTBS赤坂ACTシアターで体感してほしいです。