みんながやりやすいように現場を作っていった

――撮影で印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

川栄 税務署のシーンの撮影では、上田監督が細かく指示を出されるというよりも「一回やってみてください」と私たちに委ねてくださいました。その上で、みんながやりやすいように、内野さんや橘大和役の小澤征悦さんを筆頭にたくさんアドバイスをいただいて、全員で現場を作っていったんです。私と小澤さんがぶつかるシーンがあるのですが、それが難しくて、見え方やアングルをみんなが考えてくだったのが印象に残っています。

内野 望月さくらを演じているときの川栄さんの瞳が怖くて(笑)。

川栄 (笑)。

内野 税務署のシーンでは席が向い合わせなんですが、目の前に座っている川栄さんの目は正義感の強いさくらそのもので、こいつに嘘は付けないなと感じさせる眼差しでした。

川栄 さくらには深い事情でどうしても国税局で働きたいという夢があって、でもその夢を壊されてしまいます。

内野 その正義感の強さで、日和見な先輩を突き詰めてくるわけです。台詞だけじゃなくて全身全霊で「本当にこれでいいんですか?」というオーラを放っていました。

――氷室マコトを演じる岡田将生さんをはじめとした個性豊かな詐欺師の方々たちとのシーンはいかがでしたか?

内野 熊沢は氷室に紹介されて詐欺師の巣窟に行くのですが、公務員の熊沢二郎としては遊園地にでも行っているかのような気分でした。怪しげな工房ややくざの親分の事務所など、毎回ガラッと雰囲気が変わるので、毎日がカルチャーショックだし、ワンダーランドですよね。熊沢は毎回怖がっているけど、演じている僕としてはとても面白かったです。あと一番印象に残っているのは人生で初めてのリモート演出での撮影ですね。

――上田監督がコロナに感染されて、現場に立ち合えなくなってしまったんですよね。

内野 まさに珍道中でした。上田監督がいないから、「これはこういうことだからこうしよう」と現場で一旦まとまるのですが、いざやってみるとスピーカーから「それはちょっと違います」と天の声のように上田監督の声……。みんな必死なんだけど、なかなか上手くいかない。今にして思えば面白いですが、撮影当時は「頼むから監督早く出てきてくれ!」と思っていました。