本読みに一か月かけてから稽古に入ったので仲も深まった

――『インヘリタンス-継承-』は前後篇6時間半の大作ですが、台本も膨大なページ数なのではないでしょうか。

百瀬朔(以下、百瀬) 僕らはオーディションで出演が決まったんですが、最初にいただいた初稿が400ページぐらいあって、読むだけでも時間がかかりました。

久具巨林(以下、久具) 最初に送られてきたのが企画書と台本で、企画書を読まずに台本を開いたら、6つにファイルが分かれていて、どういうことだと(笑)。1つ目のファイルだけでも80ページぐらいあって、企画書を見たら上演時間が6時間半と知って驚きました。

――それぞれの役どころをお聞かせください。

久具 僕が演じるピーターは、エイズを発症して結果的にホームレスになる人物で、時間だけ言うとピンポイントしか出てこない役どころではあるんです。でも存在感は強くて、この人物がいなかったら、主人公・エリック(福士誠治)の物語自体も始まらなかったというぐらい、きっかけになるような人物です。だからこそ少ない出番でも、いろいろなインパクトを残せるように創意工夫しないといけないなと思っています。

――時代背景としては、まだエイズが不治の病だった頃ですよね。

久具 そうです。小学生のときに、授業で「過去にエイズという病気が流行って」みたいなことを聞いていたんですが、今回の舞台に出演することになって調べていくうちに、今では治療薬も開発されて、不治の病じゃなくなっていることを知りました。

百瀬 僕が演じるジェイソンは高校の化学教師で、エリックに関わってくる人たちのコミュニティの一人。前後編を通して、何度かみんなで集まってパーティーをする一員です。本読みだけでも約一か月と長く期間をとっていただいたんですが、演出の熊林弘高さんがこだわって作ってくださっているなと感じました。難しい話も多いし、重いシーンも多いんですけど、その中でちょっと笑えるシーンがコミュニティ内では多くて、この舞台のいろいろな側面を見せられる役なんじゃないかなと思っています。エイズに関しては、専門家の方がレクチャーをしに来てくださったので、大きく認識も変わりました。

――ゲイ・コミュニティの群像劇ということで、役作りで意識したことはありますか。

久具 熊林さんが読み合わせのときに仰っていたのは、あまり作り過ぎない、キャラクターに頼らないということでした。下手に作り込んでしまうと、言葉とかも表面的なものになってしまうということも、よく仰っていて。いわゆるジェンダーにとらわれないしぐさもするんですが、そのしぐさの中にも、ちゃんと嘘をつかないお芝居をするということが、僕に限らず、みんなから感じます。

――事前に参考にした作品などはありますか。

百瀬 熊林さんは過去に観た映画や外国のオペラからインスピレーションを得ることが多いそうで、HIVをテーマにした『ノーマル・ハート』(14)や、ゲイカップルを描いた『ブエノスアイレス』(97)や『ブロークバック・マウンテン』(05)などの映画から、シーンを挙げて説明してくださったので、それは観ました。熊林さんの頭の中で出来上がっているイメージが伝わりやすかったです。

久具 メインで会話を繰り広げている人物の周りにいる人たちも常に舞台上にいることが多くて、その中の動きを熊林さんと役者陣でセッションして作っていったので、そうやって映画のシーンなどを挙げていただけるのはありがたかったです。

百瀬 メインキャストの方々に比べると、周りにいる僕たちの出番やセリフは少ないほうではあるんですが、基本的に出ずっぱりだし、モノローグ的なところもみんなで作っていくんですよね。もちろん自分がセリフを言うときはキャラに入りますが、舞台上で普通に座って見ているだけの場面も多いので、すごく不思議な感覚です。

――稽古中の雰囲気はいかがでしたか。

百瀬 女性の出演者は麻実れいさんだけで後篇のみ。ほぼ男しかいないですし、本読みに一か月かけてからの稽古だったので、かなり仲は良いと思います。

久具 稽古中に熊林さんの仰ったことで、メモがとれなかった部分とかを休憩中に確認し合っていたので、日に日に結束力が増しているなと感じました。長い作品だから、一人ひとりの仕事量も多くて。そうすると口には出さずとも、全員で支え合おうという気持ちが強くなっているのを肌で感じます。

――一か月の本読みを経て、立ち稽古をしたときって手ごたえはありましたか。

百瀬 個人的には立ち稽古の初日、2日目ぐらいで面白くなりそうだなっていう感じはありました。熊林さんは緻密に作り上げるプラス即興性もあるので、その場で思いついたことを取り入れていくんです。だから、「ここで、こうするの?」みたいな驚きの部分がたくさんあるんですよね。

久具 シリアスなシーンと軽いシーンそれぞれありますが、ここは重くいくんだろうなと思っていたところも、クスッと笑えるようなポイントを入れてくるので、本読みのときよりも、良い意味でライトになって、構え過ぎずに観られる作品になっています。あと各キャラクターが愛くるしく、憎めなくて、嫌なキャラクターが一人もいないんですよね。観てくださる方それぞれの推しキャラが見つかると思います。

百瀬 6時間半と聞くと、構える方もいると思うんですが、とりあえず前篇だけでも観ていただきたいですね。

久具 前篇を観たら、絶対に後篇も気になると思うんです。

百瀬 通し券を買っていただいたほうが、チケット代もお安くはなるんですが(笑)。後篇だけ観るという方は少ないと思いますが、もちろん後篇だけでも成立するので、気軽に足を運んでほしいです。僕自身、こういう規模の作品は初めてなので、幕が開いたらどうなるんだろうという楽しみが大きいです。

久具 僕は、ほぼ小劇場でしか舞台の経験がないので、この規模感の劇場に出られること自体が楽しみでしょうがないですし、舞台上から見る景色がどうなのかワクワクします。