こんにちは。GANG PARADE/KiSS KiSSのキャ・ノンです。新年あけましておめでとうございます。今年の年末年始はお休みをいただいて、実家に帰ってゆっくりさせてもらいました。ご飯を食べては寝て、おやつを食べては寝てと、言葉通り思いっきり寝正月でした。わたしの食生活が終わっていることがバレて、例年より炭酸飲料の摂取を節制されましたが、おいしいごはんを食べて、猫の爪を切ったり一緒に寝たりして、満たされまくったので、ここから気合い入れて駆け抜けていこうと思います。2025年も何卒、よろしくお願いします。
とは言いつつ、何も書くことがなくてどうしようとなったので、わたしが割と気に入っている文章を載せようかなと思います。どうやって書けばいいのか何もわからない状態のわたしが、なんとかなれー!と書いて提出したら、いろんな先生に褒めてもらえてうれしかったものです。褒められて伸びるタイプなので、頑張っちゃおー!と思えるきっかけになりました。よかったら読んでみてください。
『人と魚』
海の中にいるみたい。煌びやかで美しくて、息が出来なくて苦しい。溺れるわたしは抵抗するのを諦めて、大きな音と振動に身を任せて揺られていた。誰の声も聞こえない。暗闇に光るのはスポットライトに照らされたスパンコールだけだった。
「何が楽しいの、こんなとこ」
優雅に泳ぎ回る人魚たちを尻目に、隅っこのバーカウンターに腰をかけて、飲みたくもないアルコールで喉を潤す。一緒に来た彼女は誰より美しく尾鰭を翻し、こちらに近づき耳に手を当てて「聞こえないよ」とジェスチャーする。
この声が届くわけないことはわかっている。わたしは軽く頷き、彼女はまた人魚の群れにかえっていった。シンプルなのに誰よりも目立つ真っ黒なロングドレスに、ハイトーンのショートヘア。彼女は会うたびに髪色が変わっていた。自分でも何になりたいのかわからないの、そう言う彼女は腹が立つほど綺麗だった。
響き渡る低音が、やる気のない鼓動の代わりに心臓を強く打つ。いっそこのまま窒息して、気を失ってしまいたい。
「ねえ、踊らないの?」
背後から肩を叩かれる。振り向くと、安っぽいネックレスをつけた汚い金髪の男がヘラヘラと笑っていた。わたしは無言で立ち上がり、フロアで泳ぎ回る彼女の姿を探した。彼女が知らない人に声をかけられているとき、わたしはすぐに遮って腕を引いて逃げるのに、彼女はそれをしてくれない。
「もう帰ろうよ」
最前で気持ち良さそうに踊る彼女の腕を掴み、耳元で大きめの声を出す。彼女は一瞬だけ嫌な顔をして、すぐにいつものやわらかい表情に戻した。
「じゃあ上まで送っていくよ」
そう言うと、掴んでいたわたしの手を優しく握り、群の中から抜け出した。不思議だ、彼女と手を繋いでいる時だけはわたしも上手に泳げているような気になれた。
出口への扉を開ければ大きな振動も途絶えて、聞こえる音楽も小さくなった。もうまわりに人はいないのに、手を繋いだまま階段を上る。
「こんなところ、二度と来なくていいよ」
彼女は笑った。そうだよね、と合わせて笑う。
「もう始発出てる時間だね、気を付けて」
繋いでいた手を離される。陸でしか生きられないわたしは、突き放されたように思えて途端に泣きたくなった。
「あのさ、まだ帰らないの?」
「うん、待ってる人いるし」
そうなんだ、興味のないふりして返事をする。彼女はここでどんな人と会って、どんなことをするのだろうか。心がむず痒く騒めいた。
「私さ、ここにいれば息ができる感じがするの。居場所なんてどこにもないけどね」
そうか。わたしが陸でしか生きられないように、彼女は海でしか生きられないのか。
「何言ってんのって感じだよね、なんかごめん」
いや違う、それでも陸で生きる人間より、海で泳ぐ人魚の方が美しいに決まっている。わたしは何も言わず、背中を向けて歩き出す。最後に見た彼女の顔は笑っていたような、泣いていたような気がする。街はいつもみたいに、酔っ払いたちが大きな声を出して騒いでいた。ゴミを漁るカラス、横たわる人間を横目に、駅に向かって歩いた。少しずつ明るくなる空は何も悪くないのに、なんだか存在を否定されている気分になった。わたし、ずっとあの子になりたかったな。
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