人生を変えた蜷川幸雄さんとの出会い
――先ほどお話しされた蜷川さんとの出会いについて詳しくお聞かせいただけますか。
三浦 蜷川さんが青山劇場で演出された舞台の千秋楽を観させていただいた後、楽屋に挨拶に行ったんです。でも一人で行ったので、その場には僕が所属していた事務所の人もいないし、知り合いもいない。しかも千秋楽ということでバタバタしていて、所在なく楽屋の前で待っていたんです。そしたらプロデューサーの方が気付いてくれて、ようやくご挨拶させていただいたんですが、すぐに帰ってしまって。そしたら直後に僕のマネージャーさんから電話がかかってきて、「すぐに戻りなさい」と。それで楽屋に戻ったら、蜷川さんが僕の横に来て、「僕が死ぬ前に1回仕事しようね」とお声掛けいただいたんです。それが初めての出会いであり、蜷川さんが僕にかけてくれた最初の言葉でした。
――それまで蜷川さんの舞台を観たことはあったんですか。
三浦 そのときが初めてでした。蜷川さんの経歴を知っていたわけでもないですし、ただただすごい人というイメージでした。でも、なぜか母親(純アリス)からは「次にお仕事をするときは蜷川幸雄さんとしなさいよ」と言われていたんです。そしたら楽屋挨拶から間もなく、蜷川さん演出のお仕事をいただいて。きっと楽屋で蜷川さんと顔を合わせていなかったら、そういった形にはなっていなかったでしょうね。
――蜷川さんの舞台に出演するプレッシャーはなかったんですか。
三浦 蜷川さんと出会う前から自分なりに、真剣にお芝居に取り組んできたつもりでした。ただ自分に秀でたものがあったわけでもないですし、お芝居に自信があるわけでもない。しかも蜷川さんを知りもしない。だからこそ初めて蜷川さんの現場に入ったとき、恐怖感や不安などのマイナス要素が1ミリもなかったです。やれることを精一杯やればいいやという気持ちで臨んで、たとえば台本に書かれていないことでも、自分が思いついたことを、いろいろやってみたんです。そんなところを蜷川さんは好いてくださって、かわいがっていただきました。
――蜷川さんの指導は厳しいと聞きますよね。
三浦 すごく怖いし、特に若手俳優は怒られるという話は僕も聞いていましたが、そんなことはなくて。とにかく楽しい現場だなというのが入口でした。もちろん、いつまで経っても言われたことができないと厳しいことを言われる場合もありますが、とにかく僕は楽しかったんです。その後も立て続けに蜷川さん演出のお仕事をいただいて、役者というお仕事のやりがいを感じました。
――三浦さんはご両親も舞台でご活躍の俳優さんですが、この世界に入る前から舞台をやりたい気持ちはありましたか。
三浦 全くなかったです。僕が芸能界に入ったきっかけも、歌ったり踊ったりすることが好きだったからで、そもそもお芝居をするという意識もなかったです。小学校6年生のときに受けたオーディションに合格して芸能界に入り、事務所のレッスンを受けていたんですが、ちょうど声変わりをする時期で歌の稽古ができなかったんですよね。それでお芝居やダンスのレッスンを受ける日々の中で、ちょこちょこ映画やドラマのオーディションをいただくようになって。ことごとく落ちるんですが、運良く15歳のときに映画のオーディションに受かって、デビューしました。そんな感じだから舞台の醍醐味みたいなものも長い間、分からなかったんです。
――お芝居が三浦さんにもたらしたものは何でしょうか。
三浦 きっと僕は、この世界に入っていなければ、何者にもなれなかったと思うんです。それまで自分に自信が持てない生活を送っていましたから、いつも一人ぼっちのような感覚がありました。それがお芝居を通して、演出してくださる方、スタッフの皆さん、キャストの皆さん、そして応援してくださるお客様のおかげで、僕が何者かになれる瞬間があるんです。それによって自分に自信を持たせてくれるという感覚は、このお仕事を始めて知ったことです。
Information
『オイディプス王』
【作】ソポクレス 【翻訳】河合祥一郎 【演出】石丸さち子
【出演】 三浦涼介 大空ゆうひ 岡本圭人 浅野雅博 外山誠二 大石継太 今井朋彦 他
【東京公演】2025年2月21日(金)~24日(月・休) パルテノン多摩 大ホール
【大阪公演】2025年3月1日(土) SkyシアターMBS
古代ギリシャの都市国家、テーバイ。かつてこの地を怪物スフィンクスから救ったオイディプスは、非業の死をとげた先王ライオスの妻だったイオカステを妃に娶り、テーバイを治める王となっていた。やがてテーバイに疫病が発生。そこで、オイディプスはイオカステの弟クレオンをアポロンの神殿に派遣して神託を聞く。先王ライオスの殺害犯を捕らえ、罰すれば疫病は収まるというクレオンの進言に従い、預言者テイレシアスを召喚するが、テイレシアスは犯人について「オイディプスこそが犯人である」と暗示する。激怒するオイディプスに対し、イオカステはライオスが殺害された際の様子を語り、預言など気にしないようにとなだめる。それを聞いたオイディプスは、自分がライオスを殺したのではないかと思い、かえって不安に陥ることとなる。そして訪れた羊飼いが語る真実を聞き、自らの「罪」を知ったオイディプスは……。
三浦涼介
1987年2月16日生まれ。東京都出身。2002年に俳優デビュー。以降、ドラマ、映画、舞台、ライヴなど幅広く活躍。近年の主な出演作は、舞台:『ブラックジャックによろしく』、地球ゴージャス30周年記念『儚き光のラプソディ』『SaGa THE STAGE~再生の絆~』(24年)、『銀河鉄道ノ夜』『オイディプス王』『桜姫東文章』『呪術廻戦』(23)、『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』『銀河鉄道999 THE MUSICAL』(22年)、『マタ・ハリ』(21年)、ドラマ:『君とゆきて咲く~新選組青春録~』(24・EX)、『顔だけ先生』(21・CX)、『マイルノビッチ』(21・hulu)など。
PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE: TOSHIKO HARUYAMA,STYLIST:ATSUKO GODA