ルカは今の私がやりたいものが詰まっていた役柄

――『ネムルバカ』で主人公のルカ役が決まるまでの経緯を教えてください。

平 祐奈(以下、平) 出演が決まる前に監督面接があったんです。事前に原作の漫画を読んで、阪元裕吾監督とお会いして、ディスカッションをして。自分にとって、ルカは今までにやったことのないキャラクターで、初めての金髪やギター演奏など、チャレンジだらけの役でした。もともと自分のイメージを変えたい、役の振り幅を広げたいという思いもありましたし、阪元監督の作品はずっと見ていて、こういう日常劇をやりたかったので、今の私がやりたいものが詰まっていました。ぜひこの役を演じたいと思っていたところ、選んでいただけてうれしかったですし、どうやって殻を破っていこうかという楽しみがありました。

――金髪は最初から決まっていたんですね。

平 原作のルカに寄せるというよりも、今の時代に合ったルカの髪型があるのかなというところで、メイクさんや阪元監督を始め、スタッフの皆さんと試行錯誤しました。

――ルカは普段の平さんとは全く違う話し方ですよね。

平 私の普段の話し方はハキハキ系で明るい声質なので、ルカとは真逆です。阪元監督の作品は     自然体な感じの日常を切り取ったものが多いので、私自身そういう表現をしたかったんです。だから今回は声のトーンからニュアンス、言葉の言い回しまで、お客さんに何を言っているか聞き取れなくてもいいぐらいを目指したんです。録音部さんには「すみませんが声を拾えないかもしれません」と断りをいれるほどでした(笑)。ルカは音楽をやっているので、リズム感はいいと思うんですけど、日常会話はテンポ悪く行きたいなと思って、あえてリズムカルではなく、独特の間を意識しました。

――阪元監督の指示ではなく、平さん自身で意識した話し方だったんですね。

平 そうですね。

――そういう演技に不安はありませんでしたか?

平 めちゃくちゃ不安でしたが、思い切ってやってみようと。他の作品で、何度か似たような言い回しを試してきましたが、画面で観ると「まだまだだな……」ということが多かったので、今回は究極に振り切ってやろうと心に決めていました。

――全て聞き取れなくても空気さえ出せればいいと。

平 入巣とルカの日常の空気感が画面には出ていると思うので、明確な言葉にしなくても、二人の醸し出すものやバックボーン、そして描かれていない部分もお客さんと一緒に想像することで成立する作品になっていると思います。

――ルカに共感する部分はありましたか?

平 この業界にいる身としては、ルカと同じように夢を持って、そこに向かって日々もがいているという点は同じです。入巣と一緒に駄サイクル(ルカの造語。ぐるぐる廻り続けるだけで一歩も前進しない駄目なサイクルのこと)のことを語るシーンを始め、一言一句と言っていいぐらい、共感できる部分が多かったです。

――平さんは芸能活動を始めるのも早かったので、入巣とルカのように自堕落な生活の経験はなかったのでは?

平 直接的な経験はなくても近いものはあります。確かにループのような悶々とした日々の経験はないですが、ルカの必死にもがいている気持ちは誰もが通る道だなと。14年この業界にいると、自分のやりたいことだけをやれる訳ではないし、楽しく仕事をさせていただいていますが、時には仕事として通らなければならない道もあります。

――実際に久保史緒里さんと会って、そうした演技プランに変化はありましたか。

平 「変えなきゃ」というのは全然なくて、クランクイン初日に二人で女子寮のシーンを撮ったんですが、そこでルカとして出会ったときに「入巣だ!」と衝撃を受けたんです。しーちゃん(久保)が考えた役の作り方、人となりが入巣そのものというか。それが今の私がやりたいことと一致していたんですよね。そうしたお芝居への向き合い方に惹かれて、すぐにしーちゃんの虜になりました。お互いに先輩・後輩という関係性を作り上げるというよりも、自然とその距離感ができていったんですよね。だから、すぐに仲が良くなれました。

――久保さんは、どんなタイプの女性ですか。

平 器が大きくて、洞察力に優れた素敵な女の子です。『ネムルバカ』の入巣とルカとして出会えたのも良かったんですが、すごく気遣いをしてくれるので、安心して一緒にいられました。撮影中はアドリブやハプニングもあったんですが、信頼関係があったからこそ、しーちゃんが入巣だったからこそ、ここまで頑張れたというのがあります。

――居酒屋のシーンなんて、本物の大学生同士のような空気感でした。

平 そうなんです!阪元監督がカットをかけないので、その場でセリフを変えたりして、自然とリアルな雰囲気になりました。