青春映画らしい甘酸っぱさを感じる作品

――ファミレスに続く4人での海のシーンはいかがでしたか?

平 4月の撮影だったので、風が強くて寒かったです。髪はボサボサになり、砂埃も舞っていました。海で伊藤が突拍子もないことを言いますが、樋口くんの人となりは知らないんですけど、普段もこういう人なのかなみたいな、自信を持って演じている姿がリアルに感じられました。それぐらい伊藤に違和感なくはまっているのが印象的でした。

――海ではルカが伊藤に飛び蹴りをするというアクションシーンもありました。

平 私はアクションもやりたかったですし、それがアクションを得意とする阪元監督の下でやれるのがうれしくて。アクション監督の方も来てくれて何回か練習をしました。樋口くんも「ドンと来てもらって大丈夫です!」と言ってくれたので、遠慮なくバーンとやりました(笑)。その様子を阪元監督はまじまじと見て、「もうちょい上で行けますね」とアドバイスをしてくれました。アングルも凝っていて、ドローンも飛ばしていたんですが、阪元監督とアクション監督さんとで念入りに打ち合わせをしていました。

――打点の高い飛び蹴りでしたよね。

平 飛び蹴りだけ切り取るならいいんですが、砂浜だったので足がはまってしまったり、ドローンなので一連の動きをつなげなければならなかったり。飛び蹴りの前後も芝居があるので難しさはあったのですが、4人の空気感、撮影をともにして築き上げた関係性で、みんなで補い合いながら、いいものができたと思います。

――阪元監督の演出はどのような印象ですか?

平 阪元監督は本読みの段階で、私としーちゃんの二人の空気感や普段の言い回しを見て脚本を書き換えたいと仰っていました。その際に、私たちが言いやすいようにセリフを書き換えてくれたり、「こういうときってどういう会話をしますか?」と聞いてくれたりしました。私たちに限らず、どのキャストに対しても日常の会話を大事にしてくださって、それを柔軟に取り入れてくれて。現場でも必要のないセリフは削ることもありました。

――たとえば、どのシーンでしょうか?

平 ルカが音楽レコード会社の人たちと会食に行って、寮に帰ってきて、何も言わずに入巣に抱きつくシーンです。もともとセリフがあったのですが、阪元監督が「何も言葉はいらないですね」と言ってくれて。実際、あのシーンは言葉がなくても伝わるんですよね。そうやって現場に入ってからもシンプルさを大切にして削ぎ落していく印象でした。阪元監督は撮影部さん、美術部さん、衣装部さん、ヘアメイクさんなど、スタッフのみなさん全員を信頼しているのが伝わってくるんです。だからこそ全員が同じ目標を持って、そこに向かって一緒に作り上げていることが感じられました。だから私たちも入りやすかったですし、芝居に向き合いやすい環境を作ってくれていました。あと阪元監督はコミカルなシーンになると、モニターの前でニヤニヤしているので、どこが楽しいポイントなのかが分かりました。逆に笑っていないと心配になったりもして(笑)。

――初めて完成した作品を見たときの印象はいかがでしたか。

平 撮影中はがむしゃらな日々だったので、ルカとしての感情や記憶が飛んでいる部分もあって、あの撮影期間に置いてきてしまったものも多かったんです。だから完成した作品を観て、「こんなシーンだったな」と沸々と思い出しました。あとルカがいなくなってからの入巣のシーンを観ると、「こんな感じだったんだ」と切なかったです。入巣に寂しい思いをさせてしまったことで、こちらも苦しくなりました。入巣とルカの気持ちは誰もが通る道なので、どの世代の方にも響くものがあるんじゃないかなと思います。私も観ていて、「この二人は必死に今を生きているんだな」と感じました。日々いろんなことがありますが、「今の自分でいいんだ」「明日も前向きに生きよう」「今からでも遅くない」と思わせてくれる、観た人たちを応援してくれる映画だなと思いました。本当に青春映画らしい甘酸っぱさを感じました。

Information

『ネムルバカ』
新宿ピカデリーほか全国公開中

久保史緒里(乃木坂46) 平 祐奈
綱 啓永 樋口幸平 / 兎(ロングコートダディ)

原作:石黒正数「ネムルバカ」(徳間書店 COMICリュウ)
監督:阪元裕吾(『ベイビーわるきゅーれ』シリーズ)
脚本:皐月彩 阪元裕吾
Ⓒ石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会

大学の女子寮で同じ部屋に住む後輩・入巣柚実(久保史緒里)と先輩・鯨井ルカ(平祐奈)。入巣はこれといって打ち込むものがなく、何となく古本屋でバイトする日々を送っている。一方ルカはいつも金欠状態だがインディーズバンド「ピートモス」のギター・ヴォーカルとして、自らの夢を追いかけている。2人は安い居酒屋でダラダラ飲んだり、暇つぶしに古い海外ドラマを観たり…緩くもどこか心地よい日々を過ごしていた。そんなある時、ルカは大手音楽レコード会社から連絡を受け、2人の日常に大きな変化が訪れる……。

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平 祐奈

1998年11月12日生まれ。兵庫県出身。是枝裕和監督の映画『奇跡』(11)でデビュー。映画『ReLIFE リライフ』(17/古澤健)、映画『未成年だけどコドモじゃない』(17/英勉)、映画『10万分の1』(20/三木康一郎)で主演。映画『恋は光』(22/小林啓一)で第44回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞。『からかい上手の高木さん』(24/今泉力哉)、舞台『奇跡の人』(22)、「物産展の女~宮崎編~」(24)、NHK連続テレビ小説「おむすび」(24/NHK)などに出演。

PHOTOGRAPHER:YUTA KONO,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE: 池上豪(NICOLASHKA),STYLIST:Lim Lean Lee