日々、進化して、新しくなっていく舞台を肌で感じられたのは貴重な経験
――『138億年未満』の本番はいかがでしたか?
倉沢 すごく楽しくて、舞台だから当たり前だと思うんですが、お客さんのリアクションが生で返ってくる感覚が面白かったです。同時に舞台だからこその悩みだと感じることもあって……。
――どんなことで悩んだのでしょうか。
倉沢 例えば桜井日向子さんと二人でいるシーンで大笑いするくだりがあって、最初から盛り上がっていたんですが、さらに豚鼻を鳴らすことも追加になったんです。稽古で積み重ねてきたこととは違う演技がプラスされて戸惑いもあったんですが、実際に舞台でやってみると、さらにお客さんが盛り上がったんです。他にも笑えるポイントが幾つかあったんですが、一緒に楽しんでくださっているんだと直に感じられたのは良い経験でした。このお仕事を始めたときから、見てくださっている方に楽しんでほしいという気持ちはあったんですが、より明確になりました。舞台を通して目の前にいてくれる人たちが楽しんで、楽しかった気持ちを持ってお家に帰ってほしいという感情が芽生えましたね。

舞台『138億年未満』より

舞台『138億年未満』より
――豚鼻のように、新たな要素が加わることは他にもあったんですか。
倉沢 はい。福原さんが毎日見に来てくださって、毎回ノートでフィードバックをくださいました。すごく丁寧に書いてくださって、豚鼻のシーンも「もうちょっと目立たせたいから返し稽古をしましょう」という提案があったりと、日々、進化して、新しくなっていく舞台を肌で感じられたのは貴重な経験でした。
――初日と千秋楽を比べて、自身で成長したなと感じたことはありますか。
倉沢 初日は準備してきたものをやるので精一杯だったんですが、最終日はお芝居していて楽しいと感じられるようになって幸せでした。自由に、思うままに舞台上で過ごせるようになったのは成長したところだなと思います。
――ダンスシーンもありましたが、稽古と本番で違いはありましたか?
倉沢 全然違いました。私はバレエを習っていた頃から、練習よりも本番が好きなタイプでした。それは今も変わらずで、稽古中は悩んで葛藤して、自分の実力のなさを痛感して泣いて帰る日もありました。ところが本番が始まると、どんどん楽しくなって、その日のコンディションやお客さんの反応に合わせて臨機応変に動きを変えてみて、瞬間を大事にする感覚が培われたと思います。また稽古中は難しくて苦戦したところも、本番では照明や音楽に助けられて、気負わずに踊ることができました。あと舞台ならではだなと思ったのは、照明が出演者に当たっているので、暗い客席は遠くまで見えないんです。さらにスモークも焚かれていたので、お客さんに向かって踊っているのですが、ある種、自分の世界に入っているような感覚もあって面白かったです。
――舞台が終わったときの気持ちはいかがでしたか?
倉沢 寂しかったです。数ヶ月間、毎日一緒に稽古して、一緒にご飯を食べて話してという日々を過ごしていましたからね。ただ共演者の皆さんが本当に温かい人たちで、「また会おうね」と声をかけてくださって、すぐに会えるはずという気持ちにもなれました。また機会をいただけたら、舞台に挑戦したいです!
PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI