野間口徹さんと井桁弘恵さんのおかげで最後まで頑張ることができた

――昨年10月に「VRおじさんの初恋」のオーディションを受けたそうですね。

倉沢杏菜(以下、倉沢) オーディションは緊張のあまり、ほぼ放心状態で、あまり記憶がないんです。自分的には手応えもなかったので、合格と聞いたときは、まさか私が……という気持ちでした。

――初めて脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。

倉沢 まず原作コミックを読ませていただいたんですが、タイトルからしてユニークで、すごく面白いなと感じつつ、まだどこか非現実的な印象がありました。でも脚本を読ませていただいたときに、ものすごく人間臭くて、もどかしさもありながら、優しさや温かさもあって、繊細なお話なんだと改めて気付きました。私もナオキとして、真摯に作品と向き合わなければいけないなと身が引き締まりました。

――事前に役作りなどはしましたか。

倉沢 ありがたいことに撮影前に、野間口徹さん、井桁弘恵さん、演出の吉田照幸さんと4人での本読みの時間を設けてくださったんです。最初は緊張で心臓がバクバクでした。このお仕事を始める前から、お二人ともテレビで拝見していたので、「なんで私がここにいるんだろう……」みたいな。私が演じるナオキのセリフを野間口さんが読んでくださった後に、私も読んで。それに対して野間口さんと吉田監督がアドバイスをくださって、すぐに修正してというやり取りをさせていただいたのが本当に大きくて。その時間があったおかげで、その後も台本を読んでいると、野間口さんの声でセリフが聞こえてくるので、役作りのイメージが湧きやすかったです。

――ナオキは、野間口さん演じる直樹がVR(仮想現実)世界を体感するゲーム「トワイライト」で、自身を投影した制服姿の女の子です。お互いに喋り方やしぐさを寄せ合うこともあったんですか?

倉沢 外面的なことよりも、内面的なことを大切にしてほしいと吉田さんが仰っていたので、そのときに直樹がどう感じているかを大事にしました。野間口さんは、いろいろアドバイスをくださったんですが、特に覚えているのは「僕は形容詞を立てて読んでいる」とおっしゃっていたことです。たとえば、「すごいなと思った」っていうセリフがあったとしたら、「”すごいな~”と思った」と言うというお話をされていて。実際に野間口さんの演技も間近で見させていただき、ひたすら学ばせていただきました。

――現場で先輩の俳優さんから具体的にアドバイスをいただくのは貴重な経験ですね。

倉沢 こんなにありがたい機会があっていいのかというぐらい感謝の気持ちでいっぱいでした。

――実際に撮影が始まって、すぐに現場に馴染むことはできましたか。

倉沢 あの野間口さんと同一人物ということで、私に務まるのかという不安もありましたし、最初は必死でついていくみたいな感じだったんですけど、とにかく現場が温かくて。まだまだ実力も経験も未熟な私を優しく受け入れてくださって。一緒に作品を作る人として向き合ってくださったので、私も変に緊張し過ぎず、その場に身を委ねて、安心してお芝居ができました。スタッフの皆さんも良い方ばかりで、お互いがお互いをリスペクトされていてチーム感がありました。

――現場での野間口さんと井桁さんの印象はいかがでしたか。

倉沢 野間口さんは物腰が柔らかくて優しくて、いつどんなときでも温かく受け入れてくださるんです。本番直前までスタッフさんと楽しそうにお話しされているんですが、カメラが回った瞬間、直樹になるので、さすがプロだなと圧倒されました。井桁さんは優しくて明るい方です。優しさにもたくさんの種類があると思うんですけど、井桁さんは周りを良い意味で巻き込んでくださるんです。

――バラエティーの井桁さんは、そんなイメージです。

倉沢 まさにそのままで、井桁さんがいると現場が和やかになるんです。誰に対しても同じように接してくださる方で、井桁さんの優しさ、温かさに救われましたし、ナオキとして芝居に集中することもできました。経験の少ない私が最後まで頑張れたのは野間口さんと井桁さんのおかげです。