芝居がやりたくてこの世界に入ったわけじゃないと思っていた
――ここからは松下さんのキャリアについてお聞きします。芸能界に入ったきっかけは音楽だとお聞きしました。
松下 小さい頃から歌うことが好きだったんですけど、小学校高学年ぐらいから本格的に音楽に興味を持ち始めて。CDをレンタルできるようになって、いろんな曲を聴くようになってからは、洋楽にも興味を持ち始めました。エアロスミス、グリーン・デイ、Run-D.M.C.やエミネムなどのラッパーも。その頃から歌手になりたいと思って、音楽スクールを探しているうちに、大阪のボーカル&ダンススクールを見つけて、そこに通い始めたのがこの世界に入るきっかけになりました。
――その後、ミュージシャンとしてソロデビューを果たし活動を開始していますが、現在は俳優としてもご活躍されています。最初にお芝居に関わったのはいつ頃だったんですか?
松下 自分はソロデビューが18歳のときなんですけど、そのデビュー前、17歳のときに映画のお話をいただいて、出演することになったんです。それが最初の役者としての仕事でした。
――そのとき、お芝居に対しての気持ちはどういったものでしたか?
松下 正直、嫌でしたね。やりたくなくて仕方がなかったんです。やっぱり自分は歌手だし、歌って踊ることが好き、芝居がやりたくてこの世界に入ったわけじゃないって思っていたから。「自分の表現方法は歌とダンスがあるのに、なぜ芝居をやらなきゃいけないんだ」って。今思うとすごく失礼な話なんですけど。でも、それは本当に感じていたことだから、自分に嘘はつけないです。
――そういった気持ちが変わる契機となった出来事は何だったんですか?
松下 『黒執事』という漫画原作のミュージカルで、初めて主演のお話をいただいたときです。原作ファンの多い作品だったんですけど、観てくれた方にすごく喜んでもらえたんです。それで初めて、「ちょっといいかもしれない」と思って。
――評価してくれる人の声が支えにもなっていた。
松下 そのときに、「全然良くない」っていう意見が多かったら、たぶん続けてないと思います。もちろんいろんな意見があったと思うけど、良い評価をしていただいたことが、当時の原動力にはなっていたかもしれない。「自分は正直まだピンときてないけど、こうやって評価してもらえるならやれるなあ」って。
――当時はお芝居との向き合い方も同世代の役者とは違うと感じていましたか?
松下 若いからこそ表現の中にも爪痕を残したいとか、そういう邪念が生まれちゃうことがあるんです。でも、それはまっすぐその役と向き合ってないし、まっすぐその作品と向き合えてない。僕はそれがやりたくなかった。今は理解できますけど、当時は同世代の役者に対して「なんでそんな芝居に関係ないアドリブするんだよ!」とか思っていましたから(笑)。
――アーティストというバックボーンも良い方向に作用したのでしょうか?
松下 音楽のフィールドで表現ができる自分がいたからこそ、フラットな状態で芝居に入れたのはよかったことだと思います。もちろん当時は実力も何もなかったんだけど、だからこそ、現場でいろんな演出家さんとうまく渡り合えてこられたのかなと。
――その過程で鈴木裕美さんとの出会いもあり、お芝居に対する気持ちがより変化していった?
松下 裕美さんは大きなきっかけのひとつですね。あとは、何に関しても学ぶことは昔から好きだったんですけど、芝居は知れば知るほど底がない。それが楽しいし、かつ自分に合っているのかもしれないと。大人になってからまったく知らないものを学ぶ経験って、なかなかないじゃないですか。今もそうですが、芝居はそれが楽しいですね。
Information
ミュージカル『マリー・キュリー』
2025年10月25日(土)より天王洲 銀河劇場、11月28日(金)より梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演。
出演:昆夏美、星風まどか(Wキャスト)/松下優也、葛山信吾(Wキャスト)/鈴木瑛美子、石田ニコル(Wキャスト)/水田航生、雷太(Wキャスト)/能條愛未、可知寛子、清水彩花、石川新太、坂元宏旬、藤浦功一、山口将太朗、石井咲、石井亜早実、飯田汐音(Swing)
脚本:チョン・セウン
作曲:チェ・ジョンユン
演出:鈴木裕美
翻訳・訳詞:高橋亜子
企画・製作:AMUSE CREATIVE STUDIO
PHOTOGRAPHER:TOMO TAMURA,INTERVIEWER:TETSU TAKAHASHI,HAIR&MAKE:ASUKA(a-pro.),STYLIST:村田友哉(SMB International.)