僕が100点で面白いと思ったら、500点くらいまで昇華させてお届けしたい

――VISIONARY READING『三島由紀夫レター教室』は朗読劇とアニメーションという新しいスタイルの作品ですが、出演オファーを受けたときのお気持ちをお聞かせください。

高橋健介(以下、高橋) これまでも半年に一本ぐらいのペースで朗読劇をやっていますが、新感覚の世界観なのでオファーをいただいたときはうれしかったです。それもただの朗読ではなく、映像も使うということですから。

――さまざまな表現の場がありますが、高橋さんご自身にとって朗読劇はどんな位置づけにありますか?

高橋 僕自身は、舞台、ドラマ、映画、バラエティーに限らず、自分が人前に立って何かすることに対して、作品ごとに差はないです。ただ、朗読劇は普通の舞台作品以上に観に行く機会がないかもしれないので、僕が直接、口で説明するよりは、一度観に来ていただき、魅力を感じてもらうしかないのかなと思います。

――ストーリーに関して、台本を読んだ印象は?

高橋 面白かったです。やっぱり手紙ということで、ふだんの朗読劇とは違います。会話じゃないぶん一人の持ち時間も長くなりますが、それが長く感じなかった。それと、読んでいるときに京都を感じたんです。どういうことかというと、京都弁の皮肉みたいな……。表現が合っているかわかりませんが、文章の中に“裏の意味”が散りばめられているなと。原作が1960年代の作品なので、現代とはちょっと感覚が違う部分もあると思うんですけど。

――手紙なので、書く行為も意識して読むことになると思うんですが、これまでとは違った演じ方になると思います。

高橋 手紙に書いてある言葉は日常会話とは違うので、その部分を飽きさせないように見せる工夫は大事かなと。たぶん、鑑賞するときの感覚は結婚式の祝辞のようなものに近いのではないかと思っています。起承転結でオチがあって……。正直、僕もあまり経験がないことなので、言葉にカドを持たせるのか、抑揚の持たせ方も含めて、細かい部分は演出家さんと方向性などを話し合って固めていきたいです。

――本作では炎タケルという劇団員の役柄ですが、お芝居を演じられるうえで、意識されていることは何ですか?

高橋 役にもよりますが、2.5次元の舞台だと、人によっては「絶対に自分を出さない」という考え方もあると思います。僕ももちろん出さないようにしますけど、僕自身の“要素”はあるわけじゃないですか。結局どこまでいっても僕が考えたものを披露するので。だから、無理はしないことです。例えば与えられた役が50歳の設定だったとしても、ただ、「50歳を演じているように見える」のでは駄目で、そこに50歳の男性がいると思わせなきゃいけない。そういう点ではどうしても限界はありますから。

――それは俳優のお仕事を続ける中でそういう考えに?

高橋 もちろんチャレンジはしますけど、演じるうえでは演出家や監督が求めたものにアジャストしていくほうが僕には向いていますね。「この芝居はこう演じたい」という気持ちもありますけど、お客さんが求めていることなのかどうか。戦う部分は戦いますけど、自分がすべてではない、ビジネスの世界なので。自分も作品のピースの一つとして完成度を高めるために、自我を押し通し続けることはないかもしれない。

――やっぱり柔軟な視点を持っていこうという。

高橋 自然と自分はそういうタイプなんだなって。たぶん役者業以外のお仕事もやっているからだと思います。お客さんに楽しんでいただくことが、僕の最終目標なので。そのお仕事を受けたからにはそこを目指すべき、という考えが強いかもしれないです。

――改めて本作は回替わりでキャストが入れ替わりますが、共演者の方についての印象は?

高橋 太田夢莉さんとは共演したことがありますが、氷ママ子役の小沢真珠さんに関しては『クロサギ』(TBS)で演じられていた結婚詐欺師の印象がめちゃくちゃ強くて、あの存在感が今でも記憶に残っています。お会いするのは初めてですけど、時間があればその話をしようかなと思っています(笑)。

――では、本作を通して観客の皆さんにどんな体験をしてほしいですか?

高橋 いろいろ言いたいことはあるんですけど、僕が最初に台本を読んだときも、もう一度読んだときも「この本、面白いな」と思ったことが正直な感想です。だからこそ皆さんには、僕が面白いと思った以上のことを具現化して見せなきゃいけない。僕が100点で面白いと思ったら、500点くらいまで昇華させてお届けしたい。ネタバレもあるので、理想は朗読劇を観に来てもらってから原作を手に取ってもらうのが一番嬉しいですけど、原作が先でもきっと楽しめると思います。そこは自由に楽しんでほしいなと思います。