江戸川乱歩のキャラクターを演じる上で意識したこと

――それぞれの役柄を演じる上で、意識されたことはありますか?

松田 僕が演じさせていただいた哲郎は俳優なんです。それもご縁だと思うんですが、過去に出演した作品でも俳優を演じることが幾度かあったんです。哲郎は自ら脚本を書きますが、昨年公開の『追想ジャーニー リエナクト』では脚本家の役を演じさせていただきました。お芝居に関わる役が多くて、今回も自分との共通項みたいなのがあるんだろうなと思っていました。哲郎は欲深いために、新たな刺激を求めていて、自分が今生きている毎日に鬱屈としている。退屈な日常を打破するきっかけの一つとして、自分で脚本を書いて、それをきっかけに俳優としても売れるんだという野心を自分の家庭に持ち込んでしまいます。自分の妻も巻き込んだことによって、想像し得なかった出来事がいっぱい起きて、内に孕んでいた狂気が浮き彫りになっていく。

そんな哲郎を演じるにあたって、自分の中で構築したものもありましたが、現場で起きていくことを、哲郎と同じように、ピースをかき集めながらやらせていただいたのかもしれません。基本的にウエダ監督は役者に委ねてくださることが多かったんですが、要所要所でしっかりとディレクションしていただきました。

――哲郎は現実と妄想の境目が崩壊していきます。

松田 現実と自分の頭の中だけにある世界みたいなものがごちゃごちゃになっていくというのは誰しも持っていると思うんです。あえて表立って表現していない、もしくはできないだけ。だから、その辺の感覚は理解できました。

――平埜さんは『蟲』が映画初主演ですが、プレッシャーはいかがでしたか?

平埜 めちゃくちゃありました。「どうしよう……自分にできるのかな」と思うと寝られなかったですね。クランクインの前は、ずっと悪夢を見ていて、体調もどんどん悪くなって(笑)。30代になって、これからの俳優人生を鑑みるタイミングでもあったし、きっと俳優人生において大きなきっかけになる作品になるだろうという気持ちも強かったです。

――役作りで参考にされた方はいらっしゃいますか?

平埜 僕の演じた柾木は映画監督ですが、近くに平波監督というお手本がいらっしゃるので、しぐさなどを観察して参考にさせていただきました。たとえば髪の毛を触られる癖があるので、それをお芝居にも取り入れました。

――平波監督は気づいていたのでしょうか。

平埜 おそらく気づいていたと思います。服装も真似ていましたし、僕の髪質はストレートなんですが、平波監督が天パなので、「平波監督みたいにすれば良くない?」とメイクさんと話してパーマをかけました。

――後半で柾木が女性にペインティングするシーンがありますが、かなり大変だったのではないでしょうか。

平埜 大変でしたし、辛かったです。もののように人を扱うのが嫌でしたし、めちゃくちゃ緊張しました。カットがかかるたびに、佐藤里菜さんに「大丈夫ですか?寒くないですか?」と言葉をかけていました。

――見津さんも『白昼夢』が映画初主演になります。

見津 渡会は自分が暮らすマンションの階下に住んでいる夫婦の生活を覗いているという設定で、普段はすごくオドオドしていて、いわゆるコミュ障ですが、すごく自分に近いキャラクターだったんですよね。僕も幼少期から学生時代まで、人と接するのが億劫なところがあって、渡会に近いものを感じていました。もちろん覗き見という行為をしたことはありませんが、渡会からしたら小さい頃からやっていることなので、別に特別なことではない。だから他人から見ると異常なことでも、渡会にとっては日常であるということを意識して演じました。

――覗くシーンはどのように撮影したのでしょうか。

見津 まず覗いている夫婦の部屋を撮影して、その後に僕が覗いているシーンを撮るという順番だったんですが、夫婦の映像を観させていただいて、音も聞かせてもらって。脚本には書かれていない、カットがかかる直前などの映像も確認して、覗くという行為を日常的に行っている渡会に落とし込んでいきました。

――夫婦の夫の真柄太郎と対峙するラストシーンは緊張感が生々しく伝わってきました。

見津 あのシーンは事前に何度もリハを重ねたんですが、太郎役の宮田佳典さんと山城監督の3人で、「これじゃないな」と意見が一致して、何回やっても正解が出なかったんです。それで「今の段階で正解を出すべきじゃない」という話になって、最終日に撮影することになりました。だから、あのシーンは現場での積み重ねで作っていったんです。熱を持ったまま演じて、そこで生まれたものを撮ったんです。